ココロとセツナ
はじまりの日
5月7日、16時。

うちの神社の鳥居の下に、ぐったりと倒れている男の子を拾った。

名前は、海斗というのだそうだ。

海斗は私が見つけ、声をかけても起きないので、兄の爽が神社カフェまで担いで運んだ。

「脈はあるし、息もしているから、寝てるだけみたいだな」

兄は安心した様子でつぶやいた。

海斗は、美少年である。
背は高く、すらっとしている。
今までお目にかかったことの無い、少女のように可憐な美しさ。

私は、初めて男の子を見て、どきどきした。

「ここは…」

彼は目を覚ました。

「神社カフェ。休憩室だよ。あなた、鳥居の下に倒れてた」

彼は、朦朧とした表情で、こう呟いた。

「どうしても、ここに来なければいけない気がして。君は…?」

「マナ。ここに住んでる」

海斗は私を見つめ、驚いた顔をした。


「君に、会ったことがある。祭りの時」


7年前。岩時祭りにて。

9つだった海斗は、見たことの無い、美しい神輿に魅入られていたという。

何が起こったのだろう。

いきなり、神輿が燃えた。

大きな炎の中から、ひとりの少女が姿を現した。

「それが君だよ」

「どうして、あの時の事をはっきりと思い出せないんだろう。でも、あれは確かに君だったんだ」

私は、即座に悟った。

あの時の、あの少年だ。

「海斗、あなたは」

私は海斗に近寄り、彼の両頬を手で挟んだ。
「見てはいけないものを、見てしまった」

多分、海斗はその時から、ただの人ではなくなってしまったはずだ。

炎の矢がたくさん、心に刺さって。
きっと、痛かっただろう。
7年間、苦しかっただろう。

私は涙が溢れそうになり、海斗を抱きしめてこう言った。

「ごめんなさい」

「何故、謝るの?」

海斗は、不思議そうに聞き返した。

「私は、あなたをバラバラにしてしまった」
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