ココロとセツナ
数え切れないキスの途中、『赤色』の海斗は潤んだ目で、私にこう聞いてきた。


「他の『俺』にも、こんな事したの?」


目を伏せ、自分の前髪を搔きあげながら。

拗ねたように。


嫉妬してくれているのだろうか。


ちょっと可愛い。


「自分からしたのは、『緑色』の海斗」


「したのか…」



私は、思い出しながら話した。


「いつも彼は眠ってばかり。『眠った後は、極上の優しさが、心と体に訪れる』と言っては、怠けてばかり。サボってばかり。でも、憎めない。キスをねだられた時に、どうしようもなく彼に触れたくなったのは」


「優しさを分けあえる気がしたから」


すると。


がらんとした部屋の真ん中に、緑色のフカフカした、ソファーくらいの大きさのクッションが、急に現れた。


「!!」


「何だ?」


『赤色』の海斗と私がびっくりしていると、そのクッションの上に、ある人物が現れた。

「呼んだ?」


『緑色』の海斗だった。


「マナ、ずるいよ。俺には一度しかキスしてくれなかったのに」


びっくりした。


「どうして、この部屋に?」


思わず私がこう聞くと、『緑色』の彼は、ふかふかのクッションを抱きしめながら、ため息をついた。


「ひどいな。呼んだじゃない」


『赤色』の海斗はしばらく呆然としていたが、急に思いついたように聞いてきた。


「他の『俺』の事も、思い出して、教えてくれないか?マナ」


私は頷いた。


「『黄色』の海斗は、フワフワしてて風に吹かれてるような人」

「楽しい事が大好きで、衝動的。人の心の動きをいつも気にして、自分はバランス崩しそうになりながら相手を気遣って」

「寄り添ってくれる。彼は元気と勇気をたくさんくれる」



ぽん。



可愛らしい音と共に、何も無かった壁には大きな窓が現れた。


そこには綺麗な、黄色のカーテンが、そよ風にゆらゆらと揺れていた。



「わあ…っ」


部屋が、一気に明るくなった。


窓枠に片肘をついて、『黄色』の海斗は赤くなりながら、こう言った。


「マナ、何その紹介の仕方。超恥ずかしい…」



嬉しい。

3人の海斗が、この部屋に集まった。


私は、『赤色』の海斗と目を見合わせ、微笑んだ。
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