天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 片手をフェンスに添えて、もう一方の手を空へ伸ばす。
 もちろんその手は届くことはない。
 今度は摺り足で縁まで進み背伸びする。


 その瞬間、南東から風が大きく吹き付け、プリーツスカートが煽られた拍子にバランスを崩し掛ける。


(あ…危な…)


 諦めて私はそこに座り込み、縁から外へと足を投げ出した。

 風に吹かれて雲が流れる度、切り取られた青空が形を変える。真っ直ぐ延びる光芒が角度を変えながら瞬く。
 眼下に広がる街並みの向こうには細く海が見え隠れし、さざめく度に煌めいて空の景色を彩っている。

 幽かに遠くから女生徒たちのきらびやかな声が聞こえてくるばかりの、静かな時間。


(幸せだなぁ…)


 私はただ風に吹かれていた。


 出来ることならこのままずっと空に抱かれていたい。
 この穏やかな時間のまま止まってしまったらいい。


 そのためには…


 そのためには…?


 風がまた強く吹いた。
 風でフェンスが軋んだのか小さくキィと金属音が聞こえた。


 強い風に煽られてまた雲がたなびき、細い光が尾を引いて私に降り注ぐ。


 この風になら、乗れそうな気がする…


 私はもう一度、静かに空へ手を差し伸ばす。


 あとは天使が手を引いてくれさえすれば、この風に乗って雲の上へ行くことが出来るんだ。
< 10 / 69 >

この作品をシェア

pagetop