天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 もっと光を。


 最期の言葉にそう言った名高い文豪がいたけれど、今私もそう天へと叫びたい気分だった。


「光…」


 両の手を掲げた時、



「そこで何やってる?」



 不意に背後から声がした。

 びくりと背筋が身震いする。



「俺で良けりゃ話聞くからさ、戻ってこいよ」



 恐る恐る振り返ったその先には


 仁科先生がいた。



 仁科先生は笑顔─どこか強ばった─で左の手をこちらに差し伸べている。


 それを見て私はこの人が

(私が飛び降りようとしていると思ってるんだ)

と悟った。


 飛び降りようなんて微塵も考えていない。

 いや、むしろ、『飛び上がりたい』と思っていたくらいだ。

 ただ、それが出来ないことくらいわかる程度の理性は十分にあったので、それならばいっそ、ここに留まっていつまでもこの麗しい空を見ていたいと思っていた。


「…嫌」

「嫌、って、お前…」


 先生は困り果てた笑顔で、ゆっくりと一歩一歩、こちらに近付いてくる。


「邪魔しないで、って、前にも言ったじゃない」

「いやぁ、そう言われてもー…」


 言いながら先生は私の座る直ぐ傍のフェンス越しまで進んできた。

 そして、しゃがみ込んでフェンスの隙間からこちらに手を差し入れようとする。
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