天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 が、先生の大きな手はフェンスを通らず、指の付け根辺りで止まってしまう。

 先生が小さく舌打ちする。


「なぁ、俺の手、取れる?」

「取れない」

「そんなことないだろ。手、取ってよ」

「嫌」


 別にこだわりなんてなかった。

 別に死にたかったわけじゃない。素直に戻れば良いだけの話だった。


 でも。

 先生があまりに必死で私を説得しようとするのが面白かった。


 否。


 嬉しかったんだ─



 先生の指が不意にフェンスから抜けた。


(もう諦めちゃうんだ…)


 自分でも意外なほど落胆した。


 が。


「じゃあさ!ちょっとそこで待ってろ!

 今そっち行くから!」


(え…?)


 言うが早いか先生は立ち上がり、水道設備のねずみ返しのないフェンスに飛び上がる。

 先生の大きな靴では足を掛けにくそうにしながらもフェンスをよじ登り、あっという間に中に飛び降りる。


「よし!今行くぞ!」


 でも、先生の身体ではフェンスの隙間をどうにも抜けることが出来ない。


「くっそ!お前細っせーな!どうやってここ抜けたんだよぉ!」


 そう言いながら先生はその隙間から私の方へとぐっと腕を伸ばす。

 私は少し身を退き、それを避ける。


「なぁ?戻ってきてくれよ」

「嫌。私がどうなろうが先生には関係ないじゃない」

「関係あるよ」

「お給料減額しちゃう?」

「そんなんじゃねぇよ」

「じゃあ…クビ?」

「そんなこたぁどうでもいいよ!」

「じゃやっぱ関係ないじゃん」

「大アリだよ!


 俺の前で人が死ぬのは嫌なんだよ!

 だからお前に死んで欲しくないんだ!


 お前のことは俺がぜってぇ死なせねぇ!!」


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