天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした

(!?)


 再び大きく風が唸り、突風となって私を煽った。

 肩上で切り揃えた髪が顔の前に靡き、体勢がぐらつく。
 遥か眼下の固く痛々しそうな地面が眼に入る。


(う、ゎ…!)


 その時私は初めて感じたんだ。

 恐怖を。

 今にも宙から突き放されて、真っ逆さまに堕ちていく、そしてその刹那この魂を、肉体を失い元に戻ることは決してない恐怖を。


 私は無意識に呟いた。


「恐い…」

「え…?」

「恐い…恐いよ!先生!!」

「しっかりしろ!大丈夫だ!」

「先生!!恐いよ!!」

「大丈夫だ!
 だからいいか?落ち着いて俺の話を良く聞け」


 先生の泰然とした低く良く通る声に私は素直に頷いた。


「まず右手で俺の手を取れ。それから左手はそっちのフェンスを掴むんだ」


 先生が目一杯こちらへ手を伸ばした。
 私はその手を握り、反対の手でフェンスを掴んだ。先生が私の手をしっかりと握り返す。


「良し。良く出来たぞ。
 次に左足から順に足を上げて床に乗せるんだ。そしたらゆっくり立ち上がれ」


 私は言われた通り左から足を地面に付けるも脚が震え、上手く立ち上がれない。
< 13 / 69 >

この作品をシェア

pagetop