天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした

「だって…止まれなかったんだもん」

 口の中でもごもご言うと、近付いてきた先生がハンドボールを掴むように私の頭を鷲掴みにした。


(え!)


 そして私の顔を覗き込んで、鷲掴みにした手で頭をわしゃわしゃと撫でる。


「頑張れ」

 先生がにやりと笑うと心臓が波打つ。


「ほら、もっと速く走れー!」

 先生は顔を上げて私の頭から手を離すと、直ぐ逆のゴールを振り返り、去っていく。


 手が離れる瞬間、やっぱりどこか寂しいと思ってしまう。

 この人はどんなにか人の心に入り込むのが上手いんだろう。


「いいなぁ青海さん~」

「あたしも頭わしゃわしゃされたーい!」


 列に戻ると女の子たちに羨ましがられた。

 私は何と返していいか分からなくてただえへへと笑う。


 この人はどんなにか誰の心にでも入り込んでしまうんだろう…

      *  *  *
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