天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 けど何かどれも、退屈なんだ。


 友達も先生も別に私の話を真剣に聞くわけじゃない。
 だからもちろん私も至極ありきたりな当たり障りのない話をする。
 だから相手も私にそんな話をして、私もまたそんな風に聞いてとりあえずの相槌だけを打つ。


 それが日常。


 勉強するとか本を読むとか、ごはんやお菓子を食べるとか、お洋服やメイクとか、そう言う日常の全てがどれも退屈なんだ。

 何物にも私は満たされることはないんだ。


 だって、それは仕方ない。

 だって私自身が何物かに満たされるに値しないから。


 だって私は…


 私は…



 キィ…


(!!)


 外付けの螺旋の非常階段へと繋がる扉─鍵が壊れて開きっ放しになっていることを私だけが知っている扉─の音にはっとしてそちらに眼を向けた。
 ここで過ごすのが日課になって一年以上経つがこんなことは今までなかった。

 だって屋上は立ち入り禁止なのだから。


 キキィと軋む音を経てて金属製の重い扉が開く。

 そこに姿を現した人影は


(…仁科先生?)


 体育の仁科先生は去年の春からうちの学校に赴任してきた。
 歳は20代後半くらい、見た目はいかにも体育教師という感じで筋肉質で長身、髪は短髪にしている。

 他の学年を担当しているので直接面識はないが、噂には聞いている。


『明るくおおらかで女生徒から人気がある先生』


 そう言えば聞こえが良いが、ノリが良くていい加減、しかもチャラい、ということだ。およそ教師に似つかわしくない性格。
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