天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 それから私は丁寧な言葉や所作で振る舞うようになったし、身だしなみにも気を遣うようになった。姉からもらった服やアクセサリーも大切に身に付けるようになった。
 クラスの女の子たちから「青海、最近可愛くなったよね」と言われるようになったし、男の子からデートに誘われることもあった。勿論お断りしたけれど。


 秋が深まってきた頃、夜帰る前にお茶を飲んでいた晴先生が不意に言った。


「唯ちゃん最近なんだか綺麗になったね。ますます麗ちゃんに似てきた」

「……」


 晴先生の言葉は他の誰のそれよりもどんなにか私の胸を高鳴らせ、頬を紅く染め、私を有頂天にする。今になって思うと本当に馬鹿みたいだけど、その時の私は晴先生が私に注いでくれる眼差しが、言葉が、優しさが、その全てが幸せで仕方なかった。

 好きだった。どうしようもなく好きだった。


(高校に受かったら、晴先生に告白しよう)


 晴先生にとって私はまだ子供だろうか?

 でもまだ4ヵ月もある。今よりずっと綺麗で聡明な大人の女性になっていたい。いや、なっていよう。


 高校生の私は晴先生から見てどんな風に映るだろうか。

 昨日より今日、今日より明日。変わっていく私を見せて驚かせたい。


『綺麗になったね』

 その言葉が偽りのない確かな本物になるように。

           *
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