天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 つまりそれは…


『麗先輩に似てる。可愛いね』

 それは私に向けられた言葉ではなくて。


『凄いね唯ちゃん!』

『唯ちゃんはね、自分で思ってるよりずっと優秀なんだよ』

『唯ちゃんは偉いね』

 それは姉の気を惹くために出てきたリップサービスで。


『綺麗になったね。ますます麗ちゃんに似てきた』

 私が煽てられて乗せられた言葉も、所詮姉を称えていたに過ぎなかった。


 そして姉も。


『まさか。晴くんは私より年下だし、そんなわけないでしょ』

 結局は偽りで。

 利用されて担がれて、そんな言葉真に受けて私はただの馬鹿な道化で。


 でも私を追い詰めたのはそれだけじゃなくて。

 本来だったら今日『おめでとう』と言われるのは私の方のはずだった。
 なのに母も、帰宅した父も『おめでとう』と言うのは姉にだった。


「麗ちゃん、本当におめでとう」

「豊島君は春からK社の研究室に入るんだって?この地方で最大手じゃないか。優秀な人を射止めたもんだな」


 どんなに勉強が出来るようになったって、どんなに友達に『可愛くなった』と言われるようになったって、本当に好きな人がこちらに向かなくちゃ意味なんてない。

 晴先生も、お姉ちゃんも、お母さんも、お父さんも…

 どんなに頑張ったって、私なんて何の意味もない。価値もない。


 私を抱き締めてくれる何者も無い─

        *   *   *
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