天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 先生の手の力が緩まり、代わりに肩を抱かれた。

「!」

 先生の胸と私の背中が幽かに触れ合う。

 呼吸が聞こえるほど近い。
 きっと私の鼓動の速さも悟られてしまう。私はフェンスに掛けた手をそっと胸に移し、ぎゅっと抑え付けた。

 先生が何か言おうと口を開く。その気配さえも感じ取れる。


「こっから海が見えるんだな。知らんかったー」

「……」

「海はいいよな、広くて自由で」


 先生の低い声が耳元で震える。
 ドキドキと昂る心音。強ばる肩先。冷たくなる指。

(なんでこんなドキドキ…)

 ちょっと、ちょっと近過ぎるから、だよね…


「のんびり生きたいなぁ。此処じゃない何処かで」

 そう言うと先生は私から離れた。そして空に向かって大きく伸びをする。


「何処か?」

「例えば、そうだなぁ…沖縄とか?青い空の下でパイナップル農家とかやんの。憧れるなぁ」

 先生は両手を頭の上に乗せて、私に向かってにっと笑った。


「多分農家そんな楽じゃないよ。ましてや沖縄なんてしょっちゅう台風も来るし、先生には向かないよ」

「そうかなぁ?俺これでも繊細で几帳面なタイプだし」

「繊細って言葉、ちゃんと辞書で引いてみた方がいいんじゃない?」

「えー!青海キツい~」

「……」

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