天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 こんな暑い日には少し濃厚過ぎる芳香。

(甘…)


 じりじりと黒い髪とセーラー襟が熱い。リノリウムが真昼の太陽を白く照り返す。


「青海は」

 二つ目のチョコを口にしながらやにわに先生が話し掛けた。

「チョコは好き?」


(?)

「…別に、普通」

「へぇ。じゃあ甘いものなら何が好き?」

「え…」

「洋菓子派?和菓子派?」

「え、と…」

「お菓子より果物派かな?」

「あ…まぁ…」

「あ、奇遇。俺もホントは果物が良い人なの。パイナップル農家もいいけど、こっちでやるならイチゴ農家も興味ある。パイナップルと違ってイチゴなら摘み放題食べ放題じゃんね」

 先生が悪戯っ子みたいに笑った。


(一体何の話?)


「あっ、青海は行ったことある?駅向こうの商店街のクレープ屋」

「…ねぇ」

「ん?」

「どうでもいいから、黙っててくれない?」

「え…」

「私、静かに過ごしたくてここに来てるの」

「あ、悪りぃ…」

「……」

「……」


 不器用な気の遣い方。
 私なんかに無理してまで気遣う必要ないのに。


(どうせ私が『お姉ちゃんの妹』だから気に掛けてるだけなんだし、どうでもいいけど)


 若葉の匂いに乗って紋白蝶が舞う。青空の彼方に小さく小さく白い十字がゆっくり動いていく。

(飛行機、高いな…)

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