天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 自分で聞いてきたくせに煙草を消すでもなければ移動するでもなく、何事もないように先生は煙草を吹かし続ける。

 私もまた、別段煙草が煙たかったわけでもないので放っていた。


 まだ冷たい早春の風がびゅうっと空から吹き降りてくる。
 先生のウィンブレの上下が擦れて音を立てる。
 一人の時間を満喫するには耳障りな音。


「ていうかその服、シャカシャカ煩いよ」

「ん?これ?まぁシャカパンって言うくらいだからな。」

「てか普通にダサい。なんでそんなん着るの?」

「えー!だってこれ着なきゃ寒いじゃーん!」

「いちいち可愛い子ぶらなくていいから」

「なんだよ冷たいなー、お前」


 早く吸い終わって帰ればいいのに─


 そう思いながら空を見上げていると、

 キーンコーンカーンコーン…

 無情にもチャイムが鳴った。


「さぁってと!」

 先生が煙草を消して立ち上がる。

「ほんじゃ午後も頑張っか!」


 元来た扉の方へ向かいかけて

「およ?」

と私を振り返る。


「お前は?」

「行かないよ」

「え?」

「行かない。誰かさんに一人の時間を邪魔されたから、仕切り直し」


 今までどんなにこの時間が幸せでも授業はさぼったことはなかった。

 でも今日は気分が乗らない。
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