天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした

 パァーン…!

 銃声と共に女生徒たちが駆け出す。
 午後の競技2種目目、棒引きが始まった。

 午後の熱気と砂埃の中、棒を引き合う様はまさに合戦さながら。


「頑張れー!3年ー!」

「ハルカ!こっち!こっち空いてるーっ!」

 周りからはグラウンドの戦士たちに向けて声援の嵐が巻き起こる。


 そんな中、私はと言えば…

「……」

 応援席の後ろの欅の木陰からグラウンドの前方をぼんやり眺めていた。

 びっしりと枝を覆う青葉が私と大地に翳を落とし、その小さな隙間からきらきらとエメラルド色の木漏れ陽が零れている。グラウンドを囲む石垣に背中を預けると、ひやりとした石の感触が体操着越しに肌に伝わる。

 視線の先には目映い5月の陽射し。汗ばむ熱気。

 そして、額に汗を浮かべ真剣な表情の仁科先生。
 立ち込める砂煙の向こうに見え隠れするその姿から、私は何となく眼を離せずにいた。

 先生がピストルを高く掲げる。

 パァーン、と鋭い音がこだまする。


「今の結果、6本対5本で、3年チームの勝ち」

 マイクを通して聞こえる先生の声を歓声が掻き消した。


「退場」


 選手たちがグラウンドを後にすると、再び先生がピストルを空に向けて構える。

 パン、パァーン…


「……」


 ポロシャツの白が眩しくて眼を細めると、目尻に涙が滲んで、一層眩しく陽光が照り返した。


「ね、ね、今日仁科先生いつも以上にカッコ良くない?」


(!!)


 通り掛かった他のクラスの子たちの会話に思わずびくっとする。


「あー私も思ったー!」

「しかも一日中眺め放題だよ!体育祭やばみがやばいー!」


(……)


 別に見てたわけじゃないし。
 スターター姿が格好良いとか、思ってたわけじゃないし…

 本部テントに戻る先生の後ろ姿を無意識に眼で追っている自分に気付く。


(別に…私が見る方にいっつもあの人が視界に入り込んでくるだけだもん)

 胸の中でひとりごちながら唇を尖らせる。


「あっ、青海!」

 そんな私にクラスメイトが声を掛ける。

「障害物競争集合掛かってるよ」

「あっ!ごめん、今行く」


 私は首に掛けた鉢巻きを頭に巻き直しながら入場門に向かった。

           *
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