天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 九本木匡は1組の俺の幼馴染みだ。
 高校に入ってからはクラスが離れて教室も遠く、部活や委員会も違って会う機会がめっきり減ったが、小学1年の時に匡が引っ越してきてから小中の9年間、俺たちは馬が合ってたまたまクラスも一緒になることも多く、一緒にサッカーをしたりカードゲームにハマったりと、共に子供時代を過ごしてきた。


 その匡に何かがあった─


 俺は反射的に立ち上がる。


 廊下では悲痛な喚き声が続ける。

「九本木がッ…銃持ってきて…打った、沢引と三千家を…きょ、教室で…ッ」


(!!)


 なんだって…
 銃…?打った…?匡が…?いや、よく聞こえなかった…


 俺は無意識の内に教室を飛び出していた。


「あっ!おい仁科ッ!!」

 岡村の声が追い掛けてくる。が、俺は夢中で1組の教室に走る。
 コの字型の校舎の向こう側。1組の窓には秋風に気持ち良さそうにカーテンが揺れているのが見えた。


(匡…匡…匡ッ!)


 廊下の角を曲がったところでもう一度銃声が轟く。


 ダァァーーン!

 悲鳴が上がる。

 泣き叫び廊下に逃げ惑う人波を掻き分けて1組の教室に駆け込んだ。


「……」


 思考が白む。

 毒々しい赤がそこここに水玉模様を作る有り得ない光景に、最早匡の名を呼ぶことも出来なかった。


 赤い飛沫が弾け跳んだ机や椅子が倒れ、不整に散らかる教室は意外にも閑散としていた。


「しっかり、しろッ!…今、救急車、来るからな…!」

 心臓マッサージする教師の声だけが響く。その頭が机の蔭に上がり下がりするのが見えた。

 それから教室の中央辺りに跪く男の背中。恐らく1組の担任の数学教師だろう。

 その足元に…

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