天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした


(匡!?)


 倒れている紺の、いや、黒く染みたブレザー姿。

 突き動かされるように駆け寄る。


「うっ…」


 赤い床に横たわる『何者か』に目眩がした。


「おいお前!教室から出ろ!」

 駆け付けた教頭に腕を引かれ、そのままよろけて尻餅を付く。


(……)


 それは匡だったのか、匡ではなかったのか、今も分からない。

 匡ではないでくれ、と祈ったような気もするし、そんなことさえ思い付きもしなかった気もする。


 俺の記憶はそこまでで、学校という場にはあまりにも似つかわしくない忌まわしいまでに赤い教室にカーテンが翻るたび陽の光が零れ落ちる様と、生臭い臭い、心臓マッサージする教師の息遣いと衣擦れの音にいつしか救急車のサイレンがけたたましく入り交じる喧騒、それだけが頭の片隅にこびりついて離れない、ただただそれだけだった。

           *
< 65 / 69 >

この作品をシェア

pagetop