天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 なのに俺はそれをしなかった。


 本当に大切なものは何か。
 部活のレギュラーとか、大勢の友達とか、昼飯とか、そんな抽象的で不誠実な俗物を後生大事に抱えて、匡のことを蔑ろにしていた。

 匡を殺したのは俺じゃないか!


 アイツをおどろおどろしい深紅の海に沈めたのはこの俺じゃないか!

 その真実に気付いてしまうと、叫んでも、もがいても、我が身を掻き毟っても、どうにもならない現実に息が出来なくなるほど苦しかった。
 匡はこの世にいないのに、自分は生きていることが申し訳なく、肩身狭かった。堪らなく自分が憎かった。

 もう一度戻れるなら匡を死なせはしない、強く強く思うのに、その願いは決して叶うことはない。

 せめて匡の後を追いたいとどんなにか思ったかしれない。
 でも匡を思えば思うほど、俺が居なくなったらあのいつも連んでいる連中はどう思うだろうと、俺が匡を思って苦しむように奴らも俺を思い出して苦しむのだろうかと思うと、それだけは出来なかった。


 もう他に術はない。
 心を殺して生きようと思った。何も感じないふりをして生きようと思った。そうやって自分を騙して生きるしかないと思った。

 何事にも熱心にならず、ふわりふわりと宙を漂うように今俺の眼の前にある安楽なものだけを見て、苦しいこと全てから眼を背け、面白可笑しく生きればいい。それしかないと思った。
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