天空に一番近い蒼─好きになった人は腰掛け体育教師でした
 3月も中旬を過ぎ、春雨の合間にほんの少し雨が降り止んだ日の昼休み。

 私は久しぶりに屋上に上った。

 空はまだ重い雲に覆われ、その隙間にほんのりとだけ青空が見え隠れする。
 太陽もまだ顔を見せず、僅かな日輪がところどころ雲間から射すばかりだった。

 生暖かい湿気と幽かな汐の薫りを含んだ風が時々強く吹く。


(やっと来れた)


 水溜まりだらけの屋上は気を付けないと上靴が濡れてしまいそう。

 私は気を付けて濡れた床を進み、南側のフェンスにもたれ掛かった。


 ここに来られなくなって半月になる。

 長い旅からようやく我が家に帰ったように気持ちが落ち着く。


(あぁ…疲れた)


 何が疲れるというわけじゃない。

 ただ生きているだけで疲れるんだ。

 何かに合わせるように、にもかかわらずとりわけ何ということもないように見せ掛けて生きる、それだけでもう十分疲弊する。


(こんなくらいのことで疲れちゃうのは…私が駄目だからだよね)


 ふと顔を上げると雲間から零れ落ちる光が眼に映る。

 あたかも天使のきざはしのように柔らかく煌めきながら真っ直ぐに射し下りていた。


(あの光の階段を上ればいつでも太陽に包まれていられるのかな)

< 8 / 69 >

この作品をシェア

pagetop