ピュアダーク
病室に朝の光が入り込んだ頃、コンコンとノックする音が聞こえた。
スキンヘッドの医者と少し太った看護師が、入ってきてはアメリアの体のチェックをしだした。
ベアトリスはむ緊張してさっと立ち上がると、医者が「おはよう」と声を掛けてくれた。
一通り容態を確認すると、何も問題はないと言い切った。
当分の安静は必要だが、昼には家に帰っていいと許可もでて、ベアトリスはほっと肩の力が抜けたのを感じた。
学校も前日の騒ぎで休みなこともあり、しばらく付きっ切りで側についてあげられることもちょうどよかった。
看護師はベアトリスに書類を渡し、受付で手続きをとることを指示した。
アメリアはごめんねと謝るが、アメリアのために自分が何かできることの方が嬉しかったくらいだった。
心配はいらないとにこやかな笑顔で、ベアトリスは看護師と一緒に受付へと向かった。
医者は二人が部屋から出て行くのを最後まで確認し、アメリアと二人っきりになるとそれを待ってたかのように話し出した。
「あなたには、ホワイトライトの光が少し見えるのですが、怪我をしたのはダークライトのせいではないですか」
アメリアは驚きもせずに冷静に答えた。
「ええそうです。やはりあなたはディムライトでしたか。そうじゃないかと思ってました」
「あの一緒にいた女の子もホワイトライトですか? 光は見えないのですが、何かを被せてさえぎっているような感じがしました」
「いえ、あの子は関係ありません」
アメリアは咄嗟に嘘をついた。
「そうですか。それならいいんですが、ここ二、三日でダークライトの動きが活発になってきてるように思うのです。なんていうのでしょうか、不自然な事故に巻き込まれた患者が増えたというのか、あきらかにバックにダークライトの存在を私は感じてしまうんです。もしかしてホワイトライトを探しているのかもしれません。あいつらが活発に動くのはいつもそういうときですから…… 私の気にしすぎだといわれればそこまでかもしれませんが」
ちょうどそこにノックの音が聞こえ、医者が入るのを許可したとたん、入ってきた人物に怯えた。
適当に挨拶をすまし、その医者は他に仕事があるからとそそくさと出て行ってしまった。
「おっと、今のはディムライトだったんだね。私が来たことで脅かしてしまったようだが」
「リチャード、別にお見舞いなんてよかったのに。もしかして今回の事件の担当はあなたなの? それで事情聴取?」
突然現れたリチャードに、アメリアは少しつんとした態度を取った。
「違うんだ、昨晩、君がくれた電話なんだが、ちょうど君に事件が起こってるとき繋がっていたんだね。すまなかったすぐに応対しなくて。それでベアトリスが、その後その電話を取って、それがその、ヴィンセントが側で口を挟んで、その…… 事態はややこしく……」
はっきり話しなさいと、アメリアはいらっとして単刀直入に変わりに言ってやった。
「つまり、私があなたに助けを求めたばっかりに、ベアトリスに私とあなたが繋がってるってバレちゃったってことね」
「そっ、そうなんだ。どう説明したものか。だが、今はそんなことよりも、まず君やベアトリスが無事でよかった」
「ベアトリスにはなんとか誤魔化せるとして、問題はダークライト。私を襲ったのは何かを嗅ぎ付けたダークライトだった。さっきの医者も言ってたけど、ここ二、三日で急に動きが活発になってきた気配を感じたらしいわ。ちょうどベアトリスの力が解放された時期と重なる。油断してたわ。そういう情報はそっちには入ってないの?」
「実は、アイツがこの町に戻ってきた。ヴィンセントが昨日会ったそうだ。その時はっきりとホワイトライトの存在を感知したと言ったらしい」
アメリアの顔が露骨に歪んだ。
「そんな、コールは5年前に姿を消したと聞いて、そしてあなたの側に居れば安全だと思ってこの土地を選んだのに」
「すまない。息子が馬鹿なことをしたばっかりに」
「ヴィンセント…… 彼もほんとはかわいそうよね。自分がダークライトであるが故に苦しみを背負っている。あなた達親子は信頼できるとわかっているけど、ベアトリスを守るためにはダークライトは近づけさせられない」
「それは判っている。息子も今はわきまえてる。もう近づくことはない。そしてコールは私が始末をつける」
「そう…… 信用していいのね」
「ああ、あの時と同じように」
二人の重苦しい会話は一言で片付けられない問題が複雑に絡み合う。
アメリアとリチャードだけが知る事情──。
ベアトリスには決して知られてはいけない真実だった。
「それじゃ私は失礼する。ベアトリスもいつ戻ってくるか判らないし、この後、事情聴取に誰かがやってくるだろう。その前に姿を消すとしよう。何かわかったらまた連絡をするよ」
リチャードは病室を去っていった。
アメリアはぼんやりと天井を見ていた。
リチャードにはいくつも借りがありながらそれを返すこともなく、例えアメリアが弱みを握られている立場であっても決してリチャードはそれを押し出さない。
ダークライトでありながら、紳士的で誰よりも礼儀正しい。
アメリアにはそれが滑稽に思えた。
高貴な種族にこだわる者達の方がよほど程度が低いと感じていた。
スキンヘッドの医者と少し太った看護師が、入ってきてはアメリアの体のチェックをしだした。
ベアトリスはむ緊張してさっと立ち上がると、医者が「おはよう」と声を掛けてくれた。
一通り容態を確認すると、何も問題はないと言い切った。
当分の安静は必要だが、昼には家に帰っていいと許可もでて、ベアトリスはほっと肩の力が抜けたのを感じた。
学校も前日の騒ぎで休みなこともあり、しばらく付きっ切りで側についてあげられることもちょうどよかった。
看護師はベアトリスに書類を渡し、受付で手続きをとることを指示した。
アメリアはごめんねと謝るが、アメリアのために自分が何かできることの方が嬉しかったくらいだった。
心配はいらないとにこやかな笑顔で、ベアトリスは看護師と一緒に受付へと向かった。
医者は二人が部屋から出て行くのを最後まで確認し、アメリアと二人っきりになるとそれを待ってたかのように話し出した。
「あなたには、ホワイトライトの光が少し見えるのですが、怪我をしたのはダークライトのせいではないですか」
アメリアは驚きもせずに冷静に答えた。
「ええそうです。やはりあなたはディムライトでしたか。そうじゃないかと思ってました」
「あの一緒にいた女の子もホワイトライトですか? 光は見えないのですが、何かを被せてさえぎっているような感じがしました」
「いえ、あの子は関係ありません」
アメリアは咄嗟に嘘をついた。
「そうですか。それならいいんですが、ここ二、三日でダークライトの動きが活発になってきてるように思うのです。なんていうのでしょうか、不自然な事故に巻き込まれた患者が増えたというのか、あきらかにバックにダークライトの存在を私は感じてしまうんです。もしかしてホワイトライトを探しているのかもしれません。あいつらが活発に動くのはいつもそういうときですから…… 私の気にしすぎだといわれればそこまでかもしれませんが」
ちょうどそこにノックの音が聞こえ、医者が入るのを許可したとたん、入ってきた人物に怯えた。
適当に挨拶をすまし、その医者は他に仕事があるからとそそくさと出て行ってしまった。
「おっと、今のはディムライトだったんだね。私が来たことで脅かしてしまったようだが」
「リチャード、別にお見舞いなんてよかったのに。もしかして今回の事件の担当はあなたなの? それで事情聴取?」
突然現れたリチャードに、アメリアは少しつんとした態度を取った。
「違うんだ、昨晩、君がくれた電話なんだが、ちょうど君に事件が起こってるとき繋がっていたんだね。すまなかったすぐに応対しなくて。それでベアトリスが、その後その電話を取って、それがその、ヴィンセントが側で口を挟んで、その…… 事態はややこしく……」
はっきり話しなさいと、アメリアはいらっとして単刀直入に変わりに言ってやった。
「つまり、私があなたに助けを求めたばっかりに、ベアトリスに私とあなたが繋がってるってバレちゃったってことね」
「そっ、そうなんだ。どう説明したものか。だが、今はそんなことよりも、まず君やベアトリスが無事でよかった」
「ベアトリスにはなんとか誤魔化せるとして、問題はダークライト。私を襲ったのは何かを嗅ぎ付けたダークライトだった。さっきの医者も言ってたけど、ここ二、三日で急に動きが活発になってきた気配を感じたらしいわ。ちょうどベアトリスの力が解放された時期と重なる。油断してたわ。そういう情報はそっちには入ってないの?」
「実は、アイツがこの町に戻ってきた。ヴィンセントが昨日会ったそうだ。その時はっきりとホワイトライトの存在を感知したと言ったらしい」
アメリアの顔が露骨に歪んだ。
「そんな、コールは5年前に姿を消したと聞いて、そしてあなたの側に居れば安全だと思ってこの土地を選んだのに」
「すまない。息子が馬鹿なことをしたばっかりに」
「ヴィンセント…… 彼もほんとはかわいそうよね。自分がダークライトであるが故に苦しみを背負っている。あなた達親子は信頼できるとわかっているけど、ベアトリスを守るためにはダークライトは近づけさせられない」
「それは判っている。息子も今はわきまえてる。もう近づくことはない。そしてコールは私が始末をつける」
「そう…… 信用していいのね」
「ああ、あの時と同じように」
二人の重苦しい会話は一言で片付けられない問題が複雑に絡み合う。
アメリアとリチャードだけが知る事情──。
ベアトリスには決して知られてはいけない真実だった。
「それじゃ私は失礼する。ベアトリスもいつ戻ってくるか判らないし、この後、事情聴取に誰かがやってくるだろう。その前に姿を消すとしよう。何かわかったらまた連絡をするよ」
リチャードは病室を去っていった。
アメリアはぼんやりと天井を見ていた。
リチャードにはいくつも借りがありながらそれを返すこともなく、例えアメリアが弱みを握られている立場であっても決してリチャードはそれを押し出さない。
ダークライトでありながら、紳士的で誰よりも礼儀正しい。
アメリアにはそれが滑稽に思えた。
高貴な種族にこだわる者達の方がよほど程度が低いと感じていた。