ピュアダーク
 ベアトリスは書類とにらめっこしながら、受付で説明を受けていた。

 何もかもアメリア任せにしていたことが、自分が全てをやらなければならない。

 責任をひしひしと感じて奮闘していた。

 といっても、いきなり慣れないことをするのは大変だった。

 保険のこと、お金のこと、この辺はアメリアに聞かないとわからない。

 やはり一人で自立するには まだまだだと、早くも自信喪失気味になっていた。

 出来る限りのことをして、残りは後ほど片付けることになり、とにかく終わったと病院のロビーのソファーに腰掛けて息抜きした。

 息をついたのもつかの間、目の前で人が不自然に立ち止まった。

 下から上へと徐々に視線をずらすと、薄いブルーのジーンズを穿き、白いポロシャツを着た髪の短い男性が大輪の花のような笑顔を咲かせて立っていた。

 ベアトリスがあっけに取られて疑問符をアンテナのように頭に立てていると、その男性はいきなり目をうるわせて抱きつこうと近づいた。

「ベアトリス! 会いたかった」

 ベアトリスはさっと横に滑るように立ち上がって逃げた。

「ちょっと、待って、あなた誰?」

「僕だよ、忘れたのかい。婚約者のパトリックだよ」

「へっ? パトリック? 嘘!」

 いくつもあるベアトリスの記憶の引き出しの中で、パトリックの記憶は一番開かない引き出しにはいってるのか、すぐには彼だと理解しがたい。

 戸惑ってる隙を狙われて、パトリックがぎゅっと抱きしめてきた。

「くっ、苦しい。離して。でも、どうしてここにあなたがいるの」

 ベアトリスは必死で突き飛ばした。

「ひどいな、久しぶりに会ったのにこの仕打ちは」

 パトリックはがっかりと肩を落とし、顔に暗雲が立ちこめたように落ち込んだ。

 その落ち込み方は周りの見るものには何が起こってるのかと注目を集めるほどだった。

 ベアトリスは辺りを見回して気にしている。

 目立つのはごめんだと咄嗟に待合室のソファに腰掛ける。

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