ピュアダーク
「パトリック、とにかく落ち着いて。あのね、私も色々あって、その、訳がわからないの。お願い私に考える時間をちょうだい。まずはここに座って整理しましょう」

 隣の席をとんとんと叩いた。

 パトリックは素直に言うことを聞く。

 しかしベアトリスは何を話していいのかわからない。

 二人ともモジモジするが、暫くお互いをじっと見詰め合った。

 ベアトリスは子供の頃のパトリックの姿を思い出していた。

 活発でリーダータイプだったが、がさつで大胆なことをいつもしていた。

 覚えていることは近所に住み、高いところにすぐに上っては飛び降りたり、大きなカエルを捕まえてはベアトリスに見せて怖がらせたり、逃げれば何かと追いかけてきたことだった。

 パトリックの両親もベアトリスとパトリックが仲良くするのはあまり好ましく思っていなかった。 

 しかしある日を境に、急に優しくなり、自分の親たちと意気投合してそこから深い付き合いが始まった。

 その時、すでにパトリックと結婚の約束を親同士がしていたのだろうとベアトリスはこの時になって思う。

 父親は金持ちになるとか、騒いでいたことも思い出した。

 パトリックといえばあの町では大金持ちの一人息子で結婚すれば玉の輿だった。

 思い出せば思い出すほど、やっぱり良くわからないとベアトリスは困った顔になった。

「いつか会えると信じてずっと君のこと探してたんだ。こうやって会えて嬉しい」

「あの、パトリック、また会えて嬉しいことは嬉しいけど、でも、婚約者とかはなかったことにならない? どうせ親が決めただけで無理に従わなくても」

 パトリックはまた落ち込んだ。

「僕はずっと君に気持ちを伝えてたの知ってるだろう。これだけ愛してるんだって高いところから飛び降りて勇気を見せたり、僕の大切な宝物のカエルを君にプレゼントしたり、ずっと君だけを愛し続けると君の後ろをついて回った。伝わってるって思ってた。親が決めたとかじゃなくても僕達は運命の糸で結ばれてるって思ってた」

「えっ! あれは嫌がらせじゃなかったの?」

 ベアトリスは真実に仰天した。そこまで自分のことを思ってくれてたとは驚きに値する。

「あの、その気持ちは嬉しいけど、ほら私もあの時と比べたら随分変わってしまって、まず太っちゃったし、パトリックが抱いている記憶と比べたら全然違うよ」

「多少のことはお互い変わったとは思う。でも本質的な中身は変わってない。第一、僕は君をテレビで見かけてすぐにベアトリスだってわかったんだ。君が太ってようが髪の色が違ってようが、僕には関係なかった」

 ベアトリスは改めて太ってるといわれて顔が引き攣りそうだったが、それよりもテレビでみたという言葉が気になった。

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