ピュアダーク
「ハハハハハ、最初から君が素直に受け入れるなんて思ってなかったよ。連絡も取れずこんなに会ってなかったんだ無理もない。だけど今から君は僕のこと真剣に考えることができるだろ。昔の僕よりも、今の僕の姿を見て欲しい。僕は君に似合う男だということを証明するよ。そして君は必ず僕を好きになる」

 暗示をかけるくらいの強気の台詞にベアトリスはどきっとしてしまった。

 確かにパトリックは男らしく、大人の魅力が溢れている。

 ダークな短髪がアウトドア系で活動的な印象を与えていた。

 そして世間一般にいうカッコイイ要素も一杯含まれている。

 普通の女性なら放っておけないのも理解できるが、ベアトリスには既に心を支配している思い人がいた。

 例えそれが叶わぬ恋だとわかっていても、ベアトリスが恋焦がれるのは一人だけ──。

 ベアトリスは息を漏らすようにふっと寂しく笑った。

「パトリック、私はもう誰も好きにならないの。早く他の人を見つけた方がいいよ」

「なんだそれは。最近失恋でもして、恋に怯えた発言だな。そんなの僕が変えてやる。僕は諦めないから。だってずっとずっと君を思って生きてきたんだ。それに第一僕達は婚約してるしね」

 ベアトリスは頭を抱えた。親同士の口約束の婚約などということが、絶対的なものなのか疑問が湧いてくる。

「あのさ、親同士が勝手に決めただけで、その婚約は無効な気がするんだけど、何を根拠に婚約って言い切れるの」

 パトリックは用意していたのか紙切れをベアトリスに見せた。

 それは正式な文面でパトリックとベアトリスの両親の署名まで入っている。

 パトリックとベアトリスは将来結婚の約束を書類上の上で交わしたことになっていた。

 ベアトリスはそれを見て驚愕した。

「こんなの嘘よ。紙切れ一枚でどうして私はあなたと結婚しないといけないのよ」

「結婚自体、紙切れで証明書作るじゃないか。マリッジライセンス(結婚証明書)がそれだろ。神父の前で宣誓して署名を貰って初めて結婚となる。全ては書類作りからじゃないか」

「そんな、婚約証明書なんて聞いたことない」

「君はなくとも、これから結婚する二人の約束を目で見える形で作っただけのことさ。だから心配することないって。君は僕を好きになるから」

 ベアトリスはこの時初めてパトリックとの婚約が正式なものだと知った。

 話には聞いていたが、これほどシリアスな状態だとは夢にも思わなかった。

 パトリックをまじまじと見る。

 ──これが未来の私の旦那様……

 パトリックは白い歯を見せてウキウキと笑っている。

 それとは対照的にベアトリスはくらくらしていた。
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