ピュアダーク
 ウォーキングしてから小一時間、ようやく我が家が見えてきて、いつもの日課が終わることに、ベアトリスはほっとした。

 「ただいま」とドアを開けると、美味しそうな夕飯の匂いがすぐさま鼻を襲った。

 これは待ち伏せ攻撃に値する程、やっかいなのである。

 ダイニングテーブルには湯気が手招きし、美味しそうな料理がベアトリスを待っていた。

 アメリアは料理がプロ並に上手いから困りものだった。

 レストランでも開けばといいたくなるほど、レパートリーも広く、器用に何でも作れる。

 そこまで作らなくてもいいのにというくらい、毎日の食卓は色とりどりに賑わっている。

 だから私は太るのよ。

 ベアトリスは誘惑に勝てずこの日もたっぷり食べてしまうことになった。

「アメリア、私、ダイエット中なのよ。これじゃ痩せられないわ」

「あら、しっかりと食べてこそダイエットなのよ。それにベアトリスは全然太くなんてないわ。そのぽっちゃりがかわいいくらいなの」

 アメリアはどうでもいいことのように淡々と喋る。

 だからそのぽっちゃりが太いってことなんでしょうが!

 思わずベアトリスは反抗しそうになったが、これだけ美味しいものを仕事を持ちながらいつも作ってくれるアメリアに感謝する気持ちの方が強く、何も言えなくなった。

 最後の一口を終え、フォークを置き、軽くナプキンでベアトリスは口を拭った。

 全てを平らげた白い皿を見つめると、また本日も全部お腹に入ったねといわれているようだった。

 「はいはい」と答えるようにお腹をさすると、ゲップが出てきてしまった。

 「すみません」とすぐに謝ったものの、アメリアはマナーにはうるさい。

 指摘されるように横目で睨まれてしまう。

 それをごまかすために慌てて話を振ってみた。

< 11 / 405 >

この作品をシェア

pagetop