ピュアダーク
 パトリックの車は薄っすらと水色のメタリックがかったSUV車で、乗り心地は良く、アメリアは後部座席で動かず目を閉じてじっとしていた。

 ベアトリスが案内人役になり道を知らせると、パトリックは楽しそうに運転し、退屈させないようにとラジオのDJのように話をしていた。

 物事を良く知り、また饒舌なこともあり、ベアトリスはパトリックの話に魅了されていた。

 長い間会っていなくとも、小さい頃一緒に過ごしたこの幼馴染は、なんの違和感もなくすっと溶け込んでしまった。

 あまりにも当たり前すぎて、ベアトリスはパトリックのペースに乗せられてることも気がつかないほどだった。

 家に着くとパトリックはアメリアを支えベッドまで運んだ。

 ベアトリスがやるよりも遥かにスムーズに事を運んでいく。

 アメリアをベッドに座らせ、ふっと一息をついてパトリックは辺りを見回した。

 タンスの上の花瓶のようなものに目が止まる。

 それは水泡が幾つも入り込んでいる分厚いグラスのようなもので作られ、青緑色をしていた。

 大きさは両手で持たないと持ち上げられないサイズで、形はオーソドックスに首の辺りにくびれがあり、下に行くとふくらみを持つ壷だったが、そのくびれの部分には真珠のような丸いものが数個飾られて光沢を帯びた光を発していた。

 中途半端に水が三分の一程度入っているのも見逃さなかった。

 アメリアはそれを見られるのが嫌なのか、喉を鳴らすように、一度咳払いをした。

「とにかくありがとう。今から着替えるから席を外して貰えない」

 パトリックはすぐに察しがついて、部屋の外に出て行った。

「アメリア、着替え手伝おうか」

 ベアトリスの言葉にアメリアは首を横に振ろうとすると、痛いとばかり体を硬直させた。

 ベアトリスは笑ってしまった。

「もう、意地張らないの。私だって役に立つことあるんだから。でもパトリックが居てくれたお陰で私すごく助かっちゃった。あの人まだよくつかめないけど、悪い人じゃなさそう。あっ、だからといって婚約者だなんて私も認めたわけじゃないからね」

 ベアトリスはアメリアの着替えを手伝いながら言った。

 アメリアは静かに聞いていた。

「ねぇ、アメリア、パトリックと昔なんかあったの?パトリックはアメリアのこと何か知ってそうだったけど…… 」

「何でもないわ」

 アメリアはそっけなく答える。

 それに対してベアトリスはまたかと不満を募らせる。

< 111 / 405 >

この作品をシェア

pagetop