ピュアダーク
 ダウンタウンといえど、空は晴れ渡り明るければ、誰もが安心感を持って、治安の悪さを忘れてしまう。

 お金をかけて美しく見せる町並みでは犯罪とは程遠い雰囲気も漂い、芝生や木がある場所ではほっと一息つくこともしばしばだった。

 昼間はそんな場所だと、ダークライトも気が抜けるのかもしれない。

 コールは人探しを諦めかけて、面白いことはないかと周りを見回していた。

「暇つぶしにちょっと遊んでみるか」

 ビルの一角にカフェショップがあり人が集まっている。

 休憩がてらにそこがいいとコールは足を向けた。

 どこへ出かけても必ず目にする珍しくないカフェ。

 緑の女性のロゴが描かれた看板を尻目に店に入っていった。

 コーヒーを注文し、出来上がるまで店の端で待っていたとき、人々の話に耳を傾ける。

 声を聞くのではなく、心の闇を覗くように醜い感情を探り出す。

 例えば、あの男。窓際のカウンターで一人で座り、コンピューターを叩いていた。

 ブログの更新でもしているのか、仕事の同僚の気に入らないことを綴っているようだ。

 心の中は、同僚に腹が立つ思いで溢れかえっている。

 だが文章にして匿名で載せることによって、どんどん浄化されて喜びの部分がでてきた。

「ちぇっ、くだらねぇ。ちっぽけなことで満足しすぎ」

 コールは他のターゲットを探す。

 テーブルを囲んで若い母親が赤ん坊を抱いて友達と楽しそうに語っているように見えた。

 また集中して心の闇を覗きこむ。

 自分の赤ん坊を自慢して、早く結婚したらいいとアドバイスする若い母親に対し、友達の方は、顔は笑っているが心は鬱陶しそうに暗い影で覆われていた。

 コールは心の闇を読んだ。

「好きでもない相手と子供が出来たから結婚しただけで、きっとすぐに離婚する…… と彼女は思ってるのか。それを自慢されて優越感に浸って腹が立つか。あっちの母親の方も独身女性の持ち物がブランド物で美しく着飾って気楽な人生を送ってることに嫉妬してやがる。女同士のつまらない見栄のやりとりだな。これもくだらない。影を呼んで手を貸してやるほどでもないな」

 こういう場所では凶悪なことは起こる訳もないと材料の乏しさにがっかりしていた。

< 117 / 405 >

この作品をシェア

pagetop