ピュアダーク
「どうしたのよ。何をそんなに意地を張ってるの? ヴィンセントだって反省してジェニファーに気を遣ってヘコヘコしてるじゃない。それにベアトリスにはあの日一切近づかなかったし、そろそろ、素直になれば」

「あれは謝ってるんじゃない。何か自分に都合が悪いって感じがするの。ベアトリスを一人にするなとか、ベアトリスは悪くないとか、彼女のことばかり庇う。また三人でいつも通り仲良くしようだなんて、私のことなんて何も考えてない」

「だから、頭にきてるときは何を言われても悪いように考えてしまうのよ。一回くらいの浮気なんて許してあげなよ」

「浮気? あれが浮気っていうの?」

 ジェニファーはその言葉に驚いて疑問をアンバーに叩きつけた。

「えっ、そのまあ相手があの子じゃ浮気って言葉も変よね、ごめん。そのつまり、魔が差したってことよ」

 まずい言葉を使ったとアンバーは笑って誤魔化そうとした。

 そして手元のコーヒーカップを持ってずずーっとすすった。

 既に飲み終わっていてカップは空だったのが余計にどうしようもない焦りを感じさせる。

 ジェニファーは浮気という言葉の意味に反応したわけではなかった。

 ヴィンセントとジェニファーの間には元々何もなかったのはジェニファーが一番よく知っている。

 浮気など最初から発生しない関係。

 ジェニファーがもっとも恐れていたことが心に浮かぶ。

「ヴィンセントは……」

 ジェニファーが言いかけたが、口に出すのが苦痛でぐっとその言葉を飲み込んだ。

 しかしその後の言葉はコールが読み取っていた。

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