ピュアダーク
「ベアトリス、そんなに僕が作ったもの不味かった? さっきから無表情で食べてるし、動きが止まったと思ったら、フォーク落としてショッキングな顔してるし。どうしたんだい」

 パトリックが怪訝にベアトリスを見ていたが、ベアトリスは動かないまま、自分の世界に入り込んだようにまだ考えていた。

 パトリックの存在など完全に眼中になかった。

 その時、ベアトリスはヴィンセントの言葉を思い出していた。


『ベアトリス、これだけは言っておく。今僕はこうやって君の近くにいる。そして、今日は二人っきりになることも、君に触れることもできた。僕がそうしたいとずっと願ってきたことなんだ。それがなぜ今まで出来なかったかいつか考えて欲しいんだ。僕の言ってる意味が理解できたとき、ジェニファーがなぜ君の側に居るかもわかるよ。もうすぐまたいつもの君のイメージ通りの僕に戻ってしまう。口数の少ない僕にね。今日こうやって君と過ごせた午後は僕にはかけがえのないチャンスだっ たんだ』
 

 ヴィンセントは何かを考えてほしいと言った。

 ヴィンセントがあんな態度を取ったのには理由があるってこと?

 ベアトリスは雷に打たれたように突然はっとした。

 その瞬間我に返ってびっくりした。

 焦点が合わずピントがぼけたパトリックの顔が数センチも離れてない目の前にある。

「キャー」

 ベアトリスはのけぞってしまい、その表紙に椅子が倒れてひっくり返りそうになると、側にいたパトリックがしっかりと受け止めた。

「ちょっとどうしてそんな近くに顔を寄せてるのよ」

 心臓をバクバクさせ、体制を整えながらベアトリスは叫ぶ。

「だって、何回呼んでも答えないし、側に寄っても気がつかないし、全く動かないもんだから、今のうちにキスでもしておこうかななんて」

「何を考えてるのよ。バカ!」

「だけど、そんなに思いつめてどうしたんだい。さあ、僕になんでも言ってごらん」

 パトリックは両手を広げ、大げさな態度を取る。

「ねぇ、パトリック。あなた私に何か隠してることない?」

 パトリックの片方の眉がぴくっと動いた。

「例えば、どんなこと?」

 笑顔を忘れず、様子を探るように聞く。

「そうね、私の知らない私の真実を知ってるとか」

 ベアトリスは疑いをもつ目ではったりをかけてみた。

「ベアトリスの知らない真実…… ああ、もちろん知ってるよ」

 パトリックは堂々と言い切った。

 ベアトリスが聞きたいとばかり身を乗り出す。

「それは何なの?」

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