ピュアダーク
 アメリアをベッドに横たわらせ、パトリックはブランケットを被せて整える。

「アメリア、心配は要らない。ベアトリスはまだ何も気がついてない。あれはただの思いつきに過ぎない」

「でも、あの子、今まであんな風に聞いたことなんてなかった。嘘が剥がれ始めてきたに違いないわ」

「落ち着いて。あんな一言であなたが取り乱してどうするんですか。全くアメリアらしくない。あなたはもっと芯の強い人でしょ、ディムライト全員が恐れるくらいの」

 パトリックが笑顔で茶化すように言った。

 アメリアの強張った体の力がすっとほぐれていく。

 パトリックの目をじっと見つめると、深みのある青さが海と重なる。

 そしてそれは海と同じように茫洋としていてつかみ所がなく、パトリックの心の中を表しているようでもあった。

「パトリック、あなたは一体何をしにここに来たの」

「もちろん、ベアトリスに会いにです。ベアトリスと離れてしまった時間を取り戻しにきました。僕は本気でベアトリスを守りたいんです。あなたが無理やりベアトリスを連れて行ったあの日、僕の時間が止まってしまった。子供ながら僕は本気でベアトリスが好きだったんです。彼女がホワイトライトと判る以前からずっと。リチャード達があの時、現れなければこんなことにならなかった。彼女は何も知らずに暮らせるはずだった。そしてあなたも辛い思いをしなくてもすんだ」

「あなたは本当に何もかも知っているのね」

 パトリックは悲しい目をしながら笑って肯定した。

「僕を信じてくれませんか。僕は彼女を必ず守ってみせます。でも願わくは、彼女と結婚したいですけど、それはまた次の問題ということで」

 パトリックは、はにかんだ笑いを見せた。

 アメリアはパトリックの憎めないストレートな言葉に呆れながらも反対する気持ちが起こらなかった。

 ただ真実だけは告げようと隠さず話す。

「あなたって人は…… だけどヴィンセントもあなたと全く同じ気持ちでいるの。それにベアトリスは彼のことが……」

「その先は言わないで下さい。それは僕が確かめます。それに僕はそんな話信じたくないですから」

 慌てることもなく落ち着いてどーんと構えるその態度は潔かったが、和やかな顔つきが一瞬強張ったのをアメリアは見逃さなかった。

 そのことに触れずに話題を変えた。

「お昼ご飯ありがとうね。美味しかったわ。それから一部屋空いてるから、そこを使ってもいいわよ」

「アメリア、それじゃ僕を信用してくれるんですね」

「正直まだわからない。ディムライトと私は相性が悪いのは知ってるでしょ。でも今はあなたの助けが必要なのも事実なの。リチャードの話によると、とんでもないダークライトがこの辺をうろついている。私を襲った奴もホワイトライトを確実に狙っていた。急激にダークライトの活動が活発になってしまった。ベアトリスの存在がバレてしまったらあの子が危険に晒されてしまうわ。それだけはどんなことがあっても阻止したいの」

「わかってます。あなたが僕のことをどう思おうと、僕は自分のやるべきことをやるだけですから。でもここに住んでもいいというご好意、有難く受けさせて頂きます」

 パトリックは素直に嬉しいと笑っていた。

 そしてアメリアの部屋を後にすると、『イエスっ!』とガッツポーズを取るように上機嫌になっていた。

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