ピュアダーク
「パトリック、お願い離して。私の好きにさせて。それとも何か都合でも悪いことがあるの?」

 血を見せたパトリックにもまだ疑念が残る。

 この男も何かを知ってるに違いないと思うとベアトリスは強気につっかかる。

「君が急に走りだすから何事かと思って、その理由が知りたいだけだよ。あんな風に突進したら誰だって心配になるじゃないか。一体どうしたんだい」

「ねぇ、あの時指を切ったこと、あれはわざとだったんじゃないの。私に血を見せるために」

「何を言ってるんだい。なぜそんなことわざとしないといけないんだい。僕の不注意からに決まってるじゃないか。一体それとこれが何の関係があるっていうんだい」

 パトリックがバカバカしいと頬をプクっと膨らましたように機嫌を損ねた態度をとった。

 それはベアトリスには意外だった。

 怒るなんて思ってもいなかった。

 さっきまでの強気が少し消沈する。

 パトリックの見せた態度は折角のベアトリスの確信の柱を傾けた。

「ごめん、ちょっと気がかりなことがあって、それでつい」

 少しおどおどしてベアトリスが気まずくなった。

「それでもまだよくわからないんだけど。それなら気が済むまで探し物見つけてきたらいい。僕は家で待ってるから」

 パトリックはベアトリスの腕を離し、くるりと踵を翻して帰っていった。

 ベアトリスは、少し躊躇いながらもヴィンセントの姿を探しに走り出した。

 パトリックは振り返り、走って行くベアトリスを見る。

 自分が軽はずみで取った行動が確実に影響していることに気づくと、渋った顔になった。

 下手に隠して笑顔を見せて誤魔化すより、わざと機嫌を損ねてみたが、その場しのぎの応急処置にすぎなかった。

 そしてベアトリスが何を探しているかくらいすぐにわかった。

「アイツが来てたのか」

 ポケットから銀色の懐中時計のような形をしたデバイスを取り出した。

 蓋を開けると、ぼわっと光が浮き上がる。

 中には分厚いレンズのようなガラスがはまり込んでるだけだった。

 それはディムライトの中でも地位を約束されたものだけがもつ護身用の道具。

 ダークライトの存在を知らせたり、また身を守るための武器となるものだった。

 そしてそこから煙のような光が出たかと思うと、向きを知らせるようにある方向に向かって流れ出した。

 流れていく方向を確認しながらパトリックは歩き出した。

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