ピュアダーク
 悲しみに沈んでいたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

 ベアトリスは涙を急いでふき取ると、小さなアルバムを箱に戻して、慌ててそれを部屋の隅に押しやった。

 入ってもいいと許可をすると、ドアは開きパトリックが恐る恐る覗き込んだ。

「何よ!」

 泣いていたことを誤魔化そうとすると、ベアトリスはつっけんどんに答えてしまった。

「なんだい。まだ怒ってるのかい。まいったな。これじゃ一緒に買い物行こうって誘ってもついてきそうもないな」

 パトリックは邪魔したと遠慮してドアを閉めようとした。

「待って、一緒に行くわよ」

 きつく言い過ぎたかと少し罪悪感を覚え、ベアトリスはむきになってしまう。

 何よりパトリックは子供の頃の自分のことを知ってると思うと、思い出を取り戻したくて一緒にいたくなった。

 二人はアメリアに一言声をかける。

 アメリアはベアトリスが出歩くことに少し心配そうな表情を見せたが、パトリックは任せて欲しいと胸を張る。

 アメリアはこんな状況でもベアトリスが明るく振舞っているのは、パトリックのお陰でもあると認めていた。

 彼が現れなかったらベアトリスはふさぎこんでいたかもしれないと思うと、ここはパトリックに任せてもいいように思えてきていた。

 アメリアが何も口を挟まないことに、パトリックはそれが信頼の証だと受け取った。

 それに応えるように白い歯を見せて力強い笑顔を返していた。

 パトリックとベアトリスは車で出かけると、アメリアはベッドから起き出し、窓のカーテンを閉めた。

 先ほどパトリックから返してもらった壷を目の前にして何やらブツブツ と呪文らしい言葉を発した。

 言葉に反応して真珠のような飾りが光だし、映写機で投影されたように人影が現れた。

 そしてそれは声を発す。

  アメリアは感情を一切出さず、まるで苦手な気持ち悪い虫を見るような目をしてそれと向き合った。

 それが姿を現す度、避けて通ることができない試練をいつも味わっていた。

 アメリアはそれと暫く語っていた。
< 140 / 405 >

この作品をシェア

pagetop