ピュアダーク
「あれ、朝ごはん食べてこなかったの? あのアメリアが今日は朝食作ってくれなかったの? 規則正しい生活をしないと鉄拳が飛びそうなほどの人と一緒に住んでるのに、珍しいね。その髪型といい、今日は何かあったのかい?」

 ヴィンセントがわざとらしく含みを帯びた言い方をした。

「あんもうー、やだ、恥ずかしい。実は昨晩からちょっと不思議なことがあって……」

 ベアトリスが言い掛けると、聞きたいとばかりにヴィンセントは身を乗り出してきた。

 だが、ふと考えれば、言ったところで信じてもらえず、益々笑われると思うと口をつぐんでしまった。

 モジモジしていると、ヴィンセントはにたっと白い歯を見せて、より一層楽しそうに笑っていた。

 こんなヴィンセントを見たことがない。

 昨晩から何かがおかしくなってる。

 これもあの夢かもわからない夢のせいなのだろうか。

 ベアトリスが目を白黒して不思議そうにヴィンセントを見つめると、ヴィンセントはこの時とばかりウインクを返す。

 息が止まりそうになった。

 周りで女子たちが羨望の眼差しと嫉妬を向けている。

 ベアトリスはそれに気が付かないはずがない。

 我に返り、これが自分に釣り合わないことがわかってますよと体を小さくするのだった。

 先生が現れたことで、各々に散らばっていた生徒達は慌てて机に向かい、いつもどおりの授業が始まった。

 その後もヴィンセントは後ろの窓際に座るベアトリスをちらちら見る。

 ベアトリスはヴィンセントの視線に授業どころではなかった。

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