ピュアダーク
 ベアトリスはパトリックに抱かれているのをヴィンセントに見られていたとも知らず、抱かれるままにパトリックの胸の温もりと鼓動の響きを感じていた。

 自分のことをこんなにも思ってくれてる。

 しかしそれに応えられない。

 この状況でも自分を見失うことなく落ち着き、心ははっきりと答えを出していた。

 パトリックの抱きしめていた腕の力が弱くなったとき、突然ベアトリスの顔が自分の意思とは関係なく上を向いた。

 パトリックがベアトリスの顎を指で支えていた。

 パトリックはベアトリスの瞳をじっと見つめ、そして目を閉じ近づく。

 ベアトリスは咄嗟のことに震え出した。

 お互いの唇が重なり合う寸前、震えは強くなり、パトリックの目を覚まさせた。

 彼ははっとして目をぱっと開き、失敗を認める歪んだ顔つきを見せ、ベアトリスを自分の腕から解放して首をうなだれた。

「ごめん、ベアトリス。こんな状況では、ただの男になってしまう。頭ではわかっても感情は抑えられないや。僕スケベだし。僕の気が変わらないうちに、早く部屋から出たほうがいい。そうじゃないとほんとに狼になっちまう」

 パトリックは苦笑いをしていた。

 しかしパトリックの正直に気持ちを述べる言葉は、ベアトリスには憎めなかった。

 何もなかったように振舞おうと背筋を伸ばし立ち上がった。

「パトリック、謝るのは私の方よ。ごめんなさい。勝手に入ってしまった私が悪いの。でもこれからは寝るときは電気消してよ」

 何も言わずただ首を縦に振ってパトリックは笑っていた。

 ベアトリスは静かに部屋を後にした。

 ゆっくりとドアを閉めると、ふっと吐き出す息と共に力が抜けた。

 パトリックは電気を消し、くすぶる感情にイライラさせられながら枕を抱きかかええると同時に、寸前で理性を取り戻してよかったと胸をなでおろしていた。

 一度ならぬ二度までもと、自分で自分の頭を殴っていた。

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