ピュアダーク
「ちょっと! どうしてパトリックのことを…… それに婚約者のことも。あなた一体誰?」

「やっぱりあなたがベアトリス様だったのね。そうじゃないかと思いながらもずっと光が感じられなかったから半信半疑でした。でもまさかこんなに近くにいらっしゃるなんて、なんという幸運でしょう。とうとう解禁されたんですね。おめでとうございます。私、サラと申します。初めてお会いしますが、ベアトリス様のお噂はよく存じております。あの時は本当にお気の毒で、ご両親の事故もダークライトが関わってると聞きました。絶対にに許せません。私で宜しければいつでもお力になります。是非何でも仰せ下さい。ベアトリス様のためなら……」

 興奮して一人ペラペラと喋り、一向に終わる気配がない。

 話が進めば進むほどベアトリスにはチンプンカンプンで、話が見えない会話に不快感だけが募っていく。

 ただでさえ、髪の毛のことで機嫌が悪いのに、これ以上訳のわからないことを話されたらたまらないと一歩前に出て言葉をさえぎった。

「ちょっと待って、一体なんのことを話しているの。私には全くわからないの。なのにあなたは私のことを知っている。そして私の両親のことも。どういうことなの」

 二人の距離が狭まると圧迫感が増した。

 ベアトリスの苛立ちに、サラは、はっとして萎縮した。

「申し訳ございません。私、ですぎた真似をしました。ベアトリス様どうぞお許し下さい。私のことはどうかアメリア様にもお話にならないようにお願いします。私もここでベアトリス様とお会いし、お話したことは誰にもいいません。本当にごめんなさい」

 サラは自分の失態に苛まれて、逃げるようにトイレを飛び出していった。

「ちょっと、待ってよ。なぜアメリアのことも知ってるの?」

 後を追いかけようとしたが、鏡に映った自分の髪にまた目が向いた。

 何かがおかしい。

 先ほどまでの髪の恥ずかしさなど疾うになくなっていた。

 怪訝な目で見つめ、そこに映る自分の存在を疑う。

「私の知らない私を知ってる人がいる。じゃあ私は誰?」

 鏡に映る自分に問いかける。

 鏡に映った自分が意思を持って答えるのではと思うくらい、そこに映った表情も険しく何かを言いたげに口元を震わせていた。

 教室に戻ったとき、すでに次の授業は始まっていた。

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