ピュアダーク
 雹は勢いをつけ、全ての物に八つ当たりするように叩きつけてきた。

 二人は歩いてられないと、街路地に植えてあった木の下に身を寄せる。

 パトリックは雹から庇うようにしっかりとベアトリスを胸の中に収めていた。

 ベアトリスは落ち着いて、抱かれるままにぼんやりと雹をみていた。

 無数の白い粒が、建物の屋根に当たり、滑るように転がり落ち地面ではねている。

 じっとみてると生き物のような動きに見えてきた。

 こぼれた白いビーズは辺りをあっという間に白くした。

 雨でもない雪でもない氷の塊。

 どっちにもなりきれずに無数の苛立ちをぶちまけてるように見える。

 空から行き場のない思いが雹となって降り注ぐ光景は自分の心と重なっていた。

 ジェニファーが見せた行動はベアトリスを不安に陥れると同時に、ヴィンセントに簡単に近づくなと警告されてるようにも感じる。

 ヴィンセントと接触すれば、ジェニファーを傷つけ、人々はまた好き勝手に噂し、そしてそれに自分も苦しくなっていった。

 そこまでして思いを貫いていいものだろうかとまた迷い出した。

 中途半端な気持ちで覚悟を決められないまま、その思いをぶつければこの雹と同じになってしまう。

 雨や雪と違って、雹は当たれば傷つけるように痛い。

「そういえば、昔、グレープフルーツくらいの大きさの雹が降ったって聞いた事がある。あれはかなりの被害が出たそうだ。こんな小さな粒でも歩けないくらい迷惑だよな。雹は突然降ると困るからね。ちょっと冷えてきたようだけど、ベアトリス寒くないかい?」

 パトリックは温めようと力を入れて抱きしめた。

 全てのことから守ろうとしてくれる気持ちが伝わってくる。

 ベアトリスの心に降り注ぐ雹がとけていくような気がした。

「パトリックのお陰で暖かい。ありがとう」

 ベアトリスは目を閉じた。

 そしてパトリックの体に腕を回して抱きついた。

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