ピュアダーク
「また何かに怯えて、僕は電信柱かい?」

「ううん、違う。パトリックの優しさが嬉しくて、それに対してのお礼」

「お礼か。悪くないよ」

 ベアトリスはパトリックのことを少し考えた。

 気持ちを受け入れられずに否定ばかりしていたが、パトリックが気遣ってくれることに対してまだ感謝の気持ちを表していない。

 素直に感謝の気持ちだけは表現したかった。

 だが、この時、もしも自分がパトリックを受け入れたらどうなるのだろうという疑問も軽はずみに抱いてしまった。

「ベアトリス、雹が止んだよ」

 ベアトリスはパトリックの言葉ではっとすると、彼から離れ、頭に浮かんだ言葉をかき消すように先を急いで歩き出した。

 あたり一面の氷の粒は歩くと同時にバリバリと音を立てる。

 自分の心を踏んでいるような気がして、優柔不断な自分に腹を立てさらに雹を踏み潰す。

 ヴィンセントを思う気持ちには嘘はつけない。

 しかしその想いを抱けば抱くほど、窮地に追いやられていくようだった。

 ──ヴィンセントの真実を知ったとき、きっと後に引けない何かが待っていると思う。そしてそれが自分にとっていいことなのか悪いことなのか今は判らない。 想いを貫いてまでそれを知るべきなんだろうか。それとも気づかないフリをしてそっとしておくべきことなんだろうか。

 迷いながら、注意を払わずに歩いてるときだった。

 四つ角交差点のストリートを渡りかけたとき、右折してきたバイクが雹にタイヤを取られて滑るように ベアトリスに突っ込んだ。

 重いものが叩きつけられる音が鈍く響いた。
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