ピュアダーク
 その次の日の朝は雲一つない空が広がった。

 ヴィンセントは裏庭で朝日を浴びながら腕を伸ばして、深呼吸をしていた。

 中身が入っていない小瓶を片手に握りながら ──。

 ヴィンセントが朝食を求めて台所に入ると、リチャードが出来立てのコーヒーをカップに注いでいるところだった。

 それをヴィンセントは横から奪った。

「おいおい、ヴィンセント、今朝は早く起きたと思ったら、珍しくコーヒーを飲むのか。しかもそのシャツ、アイロン使っていやにピシッとして、気取ってるじゃないか。なんかいつもと違うぞ」

「いいじゃないか、別に」

 いつもと違うのは見かけだけじゃないとリチャードは首を傾げた。

 ダークライトの気が感じられない。

「体の調子でも悪いんじゃないのか」

「すこぶるいいよ。こんな気分のいい日は久しぶりさ」

 ヴィンセントはコーヒーを口に含んだ。

 ほろ苦さが口いっぱいに広がる。

『チャンスは一度だけ』

 その言葉と一緒に飲み込んだ。

 ──俺は真実を隠しながら、ベアトリスにどこまで想いを伝えることができるだろう。

 ヴィンセントは残りのコーヒーも飲み込むが、変化を求めるように一生懸命無理して飲み干してるようだった。

 リチャードは何も言わず、その様子を見守っていた。

< 205 / 405 >

この作品をシェア

pagetop