ピュアダーク
 ヴィンセントは張り切って学校へ向かった。

 学校の近くまで来ると、深く息を吸い込み、これからのことを案じた。

 ふと道行く人の会話が耳に入る。

「あそこの交差点で昨日、事故があったんだって。バイクで女の子がはねられたんだって」

「へぇ、その子、どうしちゃったの」

「意識不明の重体だって噂だよ」

「お気の毒に」

 それを聞いてヴィンセントも同じ言葉が頭によぎった。

 それよりも自分のことで頭が一杯だった。

 事故の真相も知らずにベアトリスのことを思いながら挑むように学校へ出陣していった。

 教室に入り、ベアトリスの笑顔を求めて彼女の机をすぐに見る。

 ちょうどジェニファーがタンポポを小さな花瓶に入れてベアトリスの机に飾っているのが目に入り、ヴィンセントは眉をしかめた。

「何の真似だ、ジェニファー」

 ヴィンセントが思わず走りよった。

「あら、知らないの、昨日ベアトリスったらバイクにはねられて意識不明の重体なんだって。それでお悔やみの花を添えてるの」

「嘘だ! 何かの間違いだ。それにこんな縁起の悪い酷いことするな」

 ヴィンセントは小さな花瓶を払いのけた。

 タンポポは散らばり、花瓶は床に落ちて簡単に割れた。

「あら、酷いのはどちら。勝手に人のものを壊すなんて。信じられなかったら、自分の目で確かめたらいいじゃないの。昔、暗殺された大統領が運ばれた有名な病院に居るって誰かが言ってたわ」

「ジェニファー、君はどうかしてるよ。いつもの君はこんな酷いことをしない」

 捨て台詞のように吐いて、ヴィンセントは教室を飛び出した。

 残されたジェニファーは目に一杯涙を溜めていた。

「誰のせいでこんな風になったと思ってるのよ」

 ジェニファーはまた胸を押さえ込んだ。

 影はジェニファーの中でせせら笑っていた。

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