ピュアダーク
「やっぱり朝になってもまだ意識が戻らない」

 アメリアは、病室でベッドに横たわるベアトリスを見つめながら呟いた。

 側でパトリックが魂をどこかに置き忘れたように憔悴していた。

「申し訳ありません。僕が側にいながらこんなことになってしまって」

「パトリック、それは何度も言ったはずよ。これはあなたのせいではないの。昨日知らされたときは心臓が止まるかと思ったけど、でもただの事故だったの。それに命の別状はないと医者も言ってたでしょ。幸いにも軽傷だった」

「でも、意識が戻らないのはなぜですか」

「何かがベアトリスの意識を妨げてるのかもしれない。彼女は無理やり塗りつぶされた過去の記憶がある。頭を打った拍子にリチャードが閉じ込めた記憶の闇が飛び出したかもしれない」

「記憶の闇?」

「リチャードは闇を操って記憶をコントロールできるダークライト。思い出させたくない記憶は闇で塗りつぶすの。ベアトリスは過去にリチャードとヴィンセントに関わった記憶を全部黒く塗りつぶされた。ほんの少しの闇なら体に悪影響は与えない。でもベアトリスの場合は通常の闇では塗りつぶせなかったらしく、リチャードは力の強い闇を使った。何も刺激を与えなければ、それはそこに留まったままになる。しかし強い刺激が加わって一部の記憶が戻るとバランスを崩し闇は広がり意識を支配する」

「リチャードにまた元の状態に戻して貰えば元に戻るってことですか」

「それが、こうなってしまったらリチャードは記憶をもう一度塗りつぶすことができなくなるの。一度思い出した記憶は、何度塗りつぶしても時間が経てば独りでに蘇っては同じことの繰り返しになってしまうから」

「それじゃ、ベアトリスはどうなるんですか」

「この闇を取り除けば彼女は意識を取り戻す。だけど記憶も一緒に蘇る。過去にヴィンセントと接触していることを思い出せば、今の状況に益々疑問を抱く。もう嘘は突き通せない」

「でもそれしか方法はないじゃないですか。何もかも話して……」

「それができたら、とうにやってるわ」

 アメリアはそれが一筋縄ではできないと言ってるようなものだった。

「とにかく意識を取り戻すことの方が先決です。リチャードを呼べばいいんですね」

「待って、危険だけどもう一つ方法があるわ。ヴィンセントならベアトリスの意識を引っ張って、記憶の闇を元の位置に戻せるかもしれない」

「どういうことですか。リチャードにはできなくてヴィンセントにはできる。それに危険って一体どんなことをするんですか」

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