ピュアダーク
 ベアトリスは、倒れていた自転車を拾い、小さいヴィンセントの後を追えば、大きいヴィンセントも同じようについていった。

「なんでついてくるんだよ」

「だってまだ名前知らないし、自己紹介もしてないから。私はベアトリスよ」

「……俺はヴィンセント」

「あっ、ちゃんと教えてくれた。ありがとう」

 ベアトリスの素直な言葉に心を動かされ、小さいヴィンセントは振り返った。

 ベアトリスは屈託のない笑顔で眩しく笑っている。

 その笑顔に釣られてヴィンセントも口元を上げていた。

 ──そう、この時、俺、ベアトリスがかわいいなって思ったんだ。そしたら急に離れたくなくなったんだ。

「飴をありがとうな。甘くて美味しいよ」

「どういたしまして。名前教えて貰ったし、それじゃ私帰るね」

「えっ、待って」

 小さいヴィンセントは咄嗟に呼び止めていた。

「ん?」

「俺んち、来ないか。あの森を入ったらすぐなんだ。俺、この夏だけここに来てるんだけど、友達居ないし暇なんだ」

「いいの? 誘ってくれて嬉しいな」

 ベアトリスは自転車を押しながら小走りになり、小さいヴィンセントの横に並んだ。

 ベアトリスは小鳥が囀るように、自分のことやこの町について色々話し出し た。

 二人のヴィンセントの口元が同時にほころんだ。

 ──ベアトリスのおしゃべりが、テンポのいい音楽を聴いてるみたいで心地よかったんだ。

「俺、ここに滞在してるんだ」

 木々の間から光が差し込み、スポットライトを浴びたように建物が浮かんで目に飛び込んだ。

「うわぁ、なんて素敵なコテージ」

 ログハウスにテラスがついていて、傘のついたテーブルが設置され、夏の暑さを逃れるように涼しげにたたずんでいた。

「父さんの友達の別荘なんだ。母さんが体の具合が悪いから、環境のいいこの場所に、この夏、招待してくれたんだ」

「そうだったの。お母さん、具合悪いんだ。それがヴィンセントの心配ごとだったんだ」

 小さいヴィンセントはベアトリスを別荘の中に招いた。

 ベアトリスは遠慮がちに入り口のドアから顔だけ覗かせた。

 その後ろで大きいヴィンセントも恐る恐る中を覗いていた。

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