ピュアダーク
「ヴィンセント、帰ってきたの。あら、ほっぺたに絆創膏」

 ──母さん!

 大きいヴィンセントもベアトリスに続いて家の中に入っていく。

 ベアトリスの意識の中の記憶だと言うことも忘れ、目の前の優しく微笑む母親に、甘えて抱きつきたい気持ちで目を潤ませていた。

 母親は長いライトブラウンの髪を束ね、髪留めでアップに留めていた。

 白い肌は病気の青白さのせいで透き通って見えるようだった。

「これはなんでもないんだ。それより母さん、起きてても大丈夫なの?」

「うん、今日は気分がいいの。あら、そちらのお嬢さんは?」

「初めまして。ベアトリスです。さっきそこでヴィンセントと友達になりました」

「あら、ハキハキとしたかわいらしいお嬢さんだこと。ヴィンセントもこんなかわいい子を誘ってくるなんて、よほど気に入ったのね」

「ち、違うよ。暇だったから」

 母親はクスクスと笑っていた。

 ──母さんはなんでもすぐに見通せたっけ。

 ベアトリスは気がかりな顔をして、ヴィンセントの母親の前に近づくと、突然抱きついた。

「あら、どうしたの?」

「おばさんの心の色、とても優しい色。でも、一箇所だけ渦があるの。それを取り除かなくっちゃ」

「面白いこというのね、ベアトリス。あなたとても温かいわ。おばさん、元気がでてくるようよ。ありがとうね」

 微笑むヴィンセントの母親とは対照的に、ベアトリスの目は悲しげだった。

 ──このとき、ベアトリスはすでに気づいてたんだ。俺の母親の命が短いことを。

 そして車のエンジン音が突然聞こえピタッと止むと、車のドアが閉まる音を立てた。

 ──あっ、親父が帰ってきたんだ。

 リチャードが家に入って来る。

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