ピュアダーク
 ベアトリスを巡って、パトリックといつの間にか張り合ってる自分が可笑しいと笑ってみているくらいだった。

 ダークライトでありながら、ベアトリスを通してディムライトのパトリックと無邪気に遊んでいる姿はまだ子供だったと、すっかり過去の記憶にのめりこんでいた。

 ──パトリックも俺のこと嫌いながら、ベアトリスと一緒に俺んちに遊びに来ていた。この日は親父も楽しそうにハンバーガーなんかテラスのグリルで焼いてちょっとしたパーティ気取りだった。そうこの時まではそれなりに楽しいひと夏だったのかもしれない。

 しかし、次の場面から微笑んでは見られなかった。ヴィンセントの母親が急に苦しみ出すシーンが始まる。

 一度その場面を見ているヴィンセントも辛い苦しい思いが蘇っていた。

 ──そうか、とうとうあの場面になるのか。

 ヴィンセントは一時目を逸らすが、体にぐっと力を込めて再び見ることを選択し、リチャードの隣に立った。

 ベッドルームにリチャードがシンシアを運び、そっと寝かした。後ろから三人の子供達も心配して覗き込んでいた。

 シンシアは痛さを我慢して、心配かけまいと気丈にふるまっていたが、顔は自然と険しくなっていく。

 痛さまでは誤魔化せなかった。

 ベアトリスは夢中でベッドに駆け寄り、思いを込めて必死にシンシアの手を強く握った。

 そこでシンシアの表情から苦しさが取り除かれていく。

 ──あっ、親父が驚いている。このときすでにベアトリスがホワイトライトだって気がついたんだ。そして母さんも。

「ベアトリス、ありがとう。痛みが和らいだわ。あなた本当に不思議な子ね。まるで…… ううん、なんでもない」

 ベアトリスはベッドから離れ、今度はヴィンセントを気遣った。

 泣きそうな顔をして突っ立っていたヴィンセントを見ると、状況を察してパトリックの腕を引っ張り部屋の外へ出ていった。

 ──ここは俺が鮮明に覚えている。また見るのは辛いが、今なら母さんが何を言いたかったかよく理解できる。

「ヴィンセント、そんな悲しい目をしないの」

「母さん、治るよね」

 シンシアは消え行きそうな笑顔を浮かべた。

「リチャード、ヴィンセントをお願いね。私はもう限界だわ」

「何を言うんだ、シンシア。きっとよくなるさ」

 リチャードの瞳は必死に涙をみせないように堪えていた。

「本当ならこんなにもたなかった。あの子がここへやってきてから寿命が少し延びた気がする。さっきも痛みをやわらげてくれて最後の最後まで穏やかな気分だわ。 あの子のお陰で笑ってお別れを言えそうよ。本当にここへ来てよかった」

「母さん」
 ──母さん

 どちらのヴィンセントも呟く。

「ヴィンセント、よく聞いてお母さんは今から旅立つの。決して悲しんじゃだめ。最後の最後で気がかかりなことから解き放たれた。あなたはもう大丈夫。ダークライトの力をいいことに使いなさい。ベアトリスを守ってあげなさい。その力はそのためにあるのよ。闇に決して負けちゃだめよ」

 ──母さんが気がかりだったこと、感情に左右されてすぐに爆発をする俺の底知れぬダークライトの力。母さんは自分が死んだ後、俺が闇に落ちることを心配し ていた。だけどベアトリスが現れて、彼女の正体を知り、俺の役割ができたことを喜んでいたのか。だが、そんなこと、この時俺がすぐにわかる訳がなかった。

 この後、暫くしてシンシアは息を引き取った。それは安らかに眠るように笑顔を最後に残して──。

 そしてヴィンセントの目が赤褐色を帯び出した。

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