ピュアダーク
「どういうことだ。真っ暗じゃないか。この後の続きが見られないのか。あっ、そっか。ベアトリスが意識を失ってこの後の記憶がないということか」

 その時、暗闇からすすり泣く少女の声が聞こえた。

「誰かいるのか」

 ぼやっとうっすら明かりを帯びて少女が座り込んで泣いているのが徐々に現れた。

「ベアトリス!」

 ヴィンセントは走って近寄ると、ベアトリスは顔を上げた。不思議そうな顔をしてヴィンセントを見つめた。

「俺が見えるのか?」

 ベアトリスは頷いた。

「お兄ちゃん誰?」

「俺は、ヴィンセントだ」

「ヴィンセント? ヴィンセントはもっと小さいよ」

「あっ、その、ここでは大きくみえるんだ。だけど、ベアトリス、なぜ泣いてるんだい」

「寒いの。凍えるくらい寒いの。それに暗くて、とても怖い。闇が体に入り込んじゃった」

 ──これはあの続きなのか。ベアトリスが意識を失ってからのベアトリスの心の中。

「ヴィンセントは大丈夫?」

「うん、俺は大丈夫」

「そう、それならよかった」

 ベアトリスは安心して笑みを浮かべると、姿が消えかけていった。

「ベアトリス、消えちゃだめだ」

「どうして? 私疲れちゃった。ヴィンセントを救えたし、これでゆっくり眠れる」

 ベアトリスが目を瞑ると、闇が煙のようにまとわり突き出した。彼女の姿がどんどん薄くなり、消滅しそうだった。

「だめだ、ベアトリス起きて!目を覚ますんだ!」

 この時ヴィンセントは自分の言葉にはっとした。自分の目的を思い出した。

 ──俺、一体何してたんだ。今何時だ。


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