ピュアダーク
 パトリックは腕時計を鬼の形相で睨み、窓の外の暗さを恨んでいた。

 残り時間まであと10分あるかないかだった。

 外は夕日が最後に放つセピア色の光を残し、夜がすぐそこまで迫っていた。

「カモン、カモン、カモン、ヴィンセント!」

 アメリアも必死に落ち着こうと、目をぎゅっと閉じていた。信じることで精神が磨り減っている状態だった。それでも信じることをやめない。

「ヴィンセントは必ず戻ってくる」

 ──俺はベアトリスを連れ戻す!

 目の前の小さなベアトリスは闇の中に埋もれていく。

 ヴィンセントは手を差し伸べるが、煙を触れるごとく、手応えが全くない。

 ──落ち着け、落ち着くんだ。あの時もこんな風だった。ベアトリスが意識を失い、息をしていなかった。俺はあの時どうしたんだ。どうやってベアトリスを引き戻したんだ。

 ヴィンセントはあの時の記憶を辿った。

 すると、また辺りは森の中の景色を映し出した。

 だがさっきと違っていたのはヴィンセント自体が子供の姿になり、ベアトリスを抱えていた。

 ベアトリスの顔は青白く、闇が体を蝕むように入り込んでいた。

 目に涙を溜めて、ヴィンセントはありったけの想いを込めて声にした。

「ベアトリス!行かないで!俺、何でもするから、闇に飲まれちゃだめだ」

 その想いをこめた声は風のようにベアトリスに付きまとった闇を蹴散らした。

 ベアトリスは、こほっと小さく息を吹き返し目を覚ました。

「ヴィンセント? ヴィンセントなの?」

 ベアトリスが言葉を発したとき、その姿は少女ではなかった。

 高校生のベアトリスだった。そしてヴィンセントも元の姿に戻っていた。

 ヴィンセントはベアトリスを力いっぱい抱きしめた。

 ベアトリスはそれが嬉しいとばかり、自らもヴィンセントの体に手を回した。

 眩しいばかりの光が二人の体から溢れ出てきた。

 辺りは真っ白く強く光り輝き、二人は溶け合い、辺りを明るくして消えていった。


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