ピュアダーク
「ベアトリス、まだ事故のショックで精神が不安定みたいね。一時的なものよ。余計なこと考えなくていいのよ」

 アメリアはベアトリスをベッドに横たわらせようとブランケットに手を伸ばした。

 反抗するようにベアトリスは手で撥ね退けてしまった。

「大丈夫一人でできるわ」

「ベアトリス」

 アメリアの目は潤み、悲しく沈み込んだ。

「ごめんなさい。心配してくれてるのに、この態度はないよね。でも私、自分がわからなくなっちゃったの。事故に遭ったのも私の不注意とわかってるんだけど、でもいつも何かが私に起こって混乱させる。それに今とてもイライラしてるの」

 ベアトリスはアメリアの顔を見ないようにと避けてふさぎ込んでしまった。

 ──いつものベアトリスじゃないわ。ヴィンセントがベアトリスの意識を引き出したとき、それと一緒に本来の眠った力も引き出されているかもしれない。それにライトソルーションの効き目が切れかけてるのも影響している。今はとても危険な状態だわ。

 アメリアが困った顔をしてうろたえてるときだった。

 大きな茶色い紙袋を抱えてパトリックが病室に入ってきた。

「おはよー。あれ、どうしたの。二人とも暗いけど。なんかあったの? あっ、わかった。お腹空いてるんだろう。そうだと思って、僕、家でご飯作ってきたんだ。ベアトリスも点滴ばかりでロクなもの食べてないだろう。しっかり食べて早く元気になろう」

「お腹空いてない」

 ベアトリスはブランケットを引き寄せ二人に背を向けるようにベッドの中に潜った。

「どうしたんだい、ベアトリスらしくないな。どこか痛いところでもあるのかい」

 パトリックは不思議そうな顔をしてアメリアに視線を移し、答えを求めた。

 アメリアは首を横にふり、まずいことになったとばかりに顔を歪ませた。

 パトリックはすぐに察しがつくとともに、紙袋から水筒を出した。

 蓋を開けると中からストローが飛び出し、それをベアトリスの目の前に差し出した。

「お腹が空いてないんだったら、水分補給だ。これだけでも飲んでくれないかい」

 ベアトリスはパトリックにも反抗の態度をとってしまう。

 そんな態度が失礼で八つ当たってるだけだと分かっているのに、気持ちがどうしても治まらない。

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