ピュアダーク
「なんだよ、いきなり現れるなよ。片付けに決まってるだろう。それより起きて大丈夫なのか」

 リチャードに見られていたと思うと、恥ずかしさがこみ上げる。

「ああ、これぐらいの傷でへこたれる私ではないからな。それにしてもリビングルーム、全く何もなくなった。お前が全部消したのか」

「ああ、修復不可能だったから、こうするしかなかった」

「まさか無の闇を使ったのか?」

「無の闇? そんなすごい技俺が使えるわけがない。俺はせいぜい物質を分解してどこかの空間に散らばさせるか、または破壊する力止まりだと思う。親父は使えるんだろう。だから他のダークライトは親父を恐れる。最強の力だからな」

「ああ、だがあれは体に負担がかかりすぎる。私も滅多に使えない技だ。しかしもしもの時は使わざるを得ないが、できるなら一番使いたくない技だ」

「心配するな。俺がコールをやっつける。俺の破壊力があれば、奴だって太刀打ちできないはずだ」

「己の力に自惚れるな。持久力、瞬発力、実践力からして、今の所、実力は奴の方が上だ。奴が私と同様、他のダークライトに恐れられる意味を忘 れるな」

 ヴィンセントは一瞬にして蹴落とされた気分になった。

 しかしリチャードの言葉を真鍮に受け止める。

「俺、親父みたいにもっと強くなりたい。どうすれば強くなれる」

「それは自分で考えろ。私が何をいったところで無駄だ。全ては己で感じ取り、己を越えることしかない。そしてそれだけの力量をお前が持ってるかにかかってくる。お前の力はまだ無限で予測不可能だ。他にも気がついてない力が潜んでるかもしれない」

 ヴィンセントは自分の両手をみていた。

 力を込めるとビリビリと電気が走っていた。

「俺の力か…… なんか俺、ベアトリスのためならなんでもできそうな気がする。彼女を守るためなら俺なんだってする」

 リチャードは息子の恋心に自分の心も切なくなる思いだった。

 敢えて言葉を聞かなかったことにした。

「コールは次の作戦を考えているはずだ。きっとお前にも絡んでくるだろう。油断するなよ」

「ああ、コールが近づけば俺だってダークライトの気は感知する。事前に目を光らせておくさ。それより親父も体のコンディション整えておくためにも、早くその傷を治せ。仕事は休んだんだろ。こんな日ぐらい一日中ベッドですごせよ」

「ああ、そうだな。そうさせてもらう。後で昼飯、どっかで買って来てくれ。実は腹が減ってな。金ならズタズタになった背広に財布が入ってるからそれ探してくれ。残ってたらの話だが」

「わかったよ。買ってくるよ」

 リチャードは部屋に戻っていった。

 ヴィンセントはまだ片づけが終わってない荒れた台所に入り、背広を探した。その時携帯電話の呼び出し音が聞こえた。

 その音のする方向に視線を移すと、一緒にズタズタの背広が目に入った。

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