ピュアダーク
 病室ではベアトリスが一人で首をうなだれて自己嫌悪に陥っていた。

 レモネードを飲み干したとたん、イライラしていた気持ちが不思議なほどすっと治まり、 頭痛も消えていた。

「ビタミンCと水分をとったらこんなにも気分が違ってくるなんて、私二人になんて酷いことをしたんだろう」

 二人に謝りに行こうかとベッドから起き上がった。

 そして椅子の上に置かれていたアメリアのショルダーバッグにふと目が行くと、はっとするように閃く。

 ──あっ、あの鞄の中には携帯電話が入っているはず。

 犯罪に手を染める一歩手前の葛藤。

 ベアトリスの胸の鼓動がフル回転しだした。

 それでも欲望に勝てずに、震える手で鞄のジッパーを開け中を覗きこむ。

 そして携帯電話を見つけたとき、ごくりと唾を飲み込み、罪悪感に苛まれながら手を延ばした。

 ベアトリスは顔をあげドアを凝視した。

 人が入ってくるかもしれないと思うと心臓の動きが早まり、胸が叩きつけられるようにドキドキする。

 手元を見れば小刻みに震える手で携帯電話を持っていた。

 覚悟を決めるように一度呼吸を止め、その勢いで携帯電話を操作した。

 探すはバトラーの苗字。

 一度この電話でヴィンセントの父親、リチャードと話をしたことがある。

 その名前が必ず登録されてるはずだとボタンを押していった。

 そして リチャード=バトラーの名前を見つけると、電話のコールボタンを押した。

 ──もしかしたらヴィンセントに連絡が取れるかもしれない。

 その期待だけでベアトリスは大胆な行動に走った。

 呼び出し音が耳の奥で響いた。


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