ピュアダーク

33 移された意識

 ゴードンはポールを連れて、数回瞬間移動を繰り返していた。

 何も知らないポールは、震えあがり恐怖に慄いていた。

 やっと目的地についたとき、いたたまれない恐ろしさからいきなり悲鳴を上げた。

「うるさいな」

 ゴードンは耳に手をあて、ギロリとポールを睨んだ。

 ポールは脳天を貫く恐ろしさにへたり込んで、腰が抜けた状態になっていた。

 ベッドで寝ていたコールも何事かと目を覚まし、床で座り込みわなわなと震えているポールに視線を向けると、ぎょっとした。

「ゴードン、まさかとは思うが、そいつがヴィンセントの友達じゃないだろうな」

「うん、そうだよ。ちゃんとそう聞いたから連れてきた」

「ち、違う、僕、ヴィンセントの友達じゃありません」

 ポールが半泣きになりながら、必死で主張する。

「えっ? だって、そう聞いたんだけど」

 ゴードンは首を傾げた。

 その側でポールはパニックに陥り心臓を押さえて激しく呼吸をしていた。

「よりにもよって、こんなオタクのデブをつれてくるなんて、これに俺が成りすますのか? もう少しましなのはいなかったのか」

 コールが、嫌悪感を抱いた顔でポールを見つめると、ポールは益々萎縮して震え上がった。

 ふくよかな脂肪がカチコチに凍りついているようだった。

「でも連れてきちゃったし、今更とりかえられない。これでもなんとかなると思うんだけど。あっ、ザックの車が来た。ちょっと迎えに行ってくるね」

 窓の外を見てたゴードンは姿を消した。

 コールはベッドから体を起こし、ポールに質問した。

「お前、名前は? ヴィンセントのことは知ってるのか?」

「僕はポールです。ヴィンセントとはたまに同じ科目を取ってますが、全く口を聞いたことありません」

 身の安全のために反抗せずに丁寧に答えていたが、体は震えきっていた。

 そこへまた二人降って沸いて出たので、ポールばまた悲鳴をあげた。

「ザックを連れてきたよ」

「あんたが、ノンライトの意識を支配したいダークライトか」

 ザックが眼鏡を動かしコールにフォーカスすると少し驚きの顔を見せた。

「ほほう、じいさんも俺の噂をちっとは聞いたことがありそうだ」

「お前は、暴れん坊のコールじゃのう。戻ってきてたとは驚きじゃ。道理で急にリチャードが他のダークライトに接触をしてきたわけじゃ。まあわしは老いぼれで力がないので無視されたが、なるほどこういうことだったのか」

「じいさん、あんたはリチャードの味方をするのか」

「わしは、中立じゃ。もう年じゃしのう。どっちが勝っても負けても関係ないわい。それにわしの能力はなんの力も持っておらん。あんたの意識をノンライトに移したところで、なんの罪もないじゃろう。年寄りの気まぐれで許される範囲じゃ」

「そうだな。そしたら早速やってもらえるか」

 コールはキッとポールを睨みつけた。

 情報を集めるだけだと、デブでも我慢することにした。

 ポールは何が起こるか全くわからず、頭を抱え戦慄して発狂していた。

「少し静かにしてくれないか。益々、お前に成りすます俺が惨めになるだろうが」

「それじゃ始めるか。えーっと、そこのおデブちゃん、ちょっとこっちへ」

 ザックが手招きすると、極限の恐怖に達してポールは気絶してしまった。

「うわぁ、なんて気の弱い奴。オイラより弱っちぃ」

 ゴードンの言葉で、コールはがっくりとうなだれた。

 ザックはゴードンに気絶したポールを運ぶように支持すると、ゴードンは引きずってベッドの近くまで持ってきた。

 コールの頭にザックが手を置き呪文のような言葉を唱えると、コールはベッドに腰掛けたまま意識を失い首をうなだれた。

 ザックがコールの頭から黒い影を 引っ張り出す。

 それを床に転がっているポールの頭にくっ付けると、その影はすっとしみこむように浸透していった。

 床に寝転がっていたポールが突然むくっと起きた。

 瞳には黒い影が渦を巻くように浮遊し、次第に馴染んで最後には溶け込んだ。

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