ピュアダーク
「いいっていいって。だけど、君の思い人は君が事故にあっても何も連絡してこなかったね。それとも知らなかったのかな」

 折角穏やかになっていたのに、ベアトリスは過激に反応してまたムキになって答えてしまう。

「放っておいてよ。別に連絡なんていらないわよ」

 パトリックはニヤリと口元を少しあげ、計算したようにことを持ち込む。

「ベアトリス、そろそろそいつのこと忘れた方がいい」

「パトリックには関係ないでしょ」

「だったらさ、賭けをしないか?」

「賭け?」

「うん。もうすぐプロムがあるんだろう。もし、そいつがベアトリスを誘ってきたら僕はベアトリスのことを諦めてそいつとの仲を応援する。でもそいつがプロムのパートナーにベアトリスを誘わなかったら、そいつのことを諦めるっていうのはどう? やってみないかい」

 パトリックはヴィンセントが誘えないことは百も承知で、都合のいい賭けを腹で笑うように持ちかける。

「えっ? そんなことできない。だって…… (ヴィンセントは私に近づけないかもしれないのに)」

「どうしてだい? 誘われないのが判ってるから、怖くてそんな約束できないのかい?」

「違う! 彼はその、特別な理由があって、そういうダンスパーティには参加しない人なの(そうよ、きっとヴィンセントはプロムに参加しないわ)」

「ふーん、じゃあさ、そのプロムパーティ、僕を誘ってよ。そのときそいつが他のパートナーを誘って来てたらそいつのことを諦めるっていうのはどうだい?」

 ベアトリスは返事に困って黙り込んでしまった。そんな賭けをすること自体が嫌だった。

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