ピュアダーク
 一日の授業が終わり、クラス中が帰り支度を始めた。

 ヴィンセントは振り向き、ベアトリスに人差し指を立て、待っててと意味すると一度教室を出て行った。

 ヴィンセントに合図されても以前の時より心躍らない。

 ベアトリスは深くため息を一つつき、席で大人しく待っていた。

 コールはもう一度ベアトリスに絡もうと席を立つが、アンバーが立ちふさがった。

「なんだよ、お前。しつこいな」

「あのさ、あまりいい気にならないでよね。私にあんなことしたからって、全然あんたなんてタイプでもなんでもないんだから」

「何を言ってるんだ?」

 アンバーはコールのとぼけた態度にキーッと苛立って睨みつけると、コールはそれに暫く気を取られていた。

 その間に、教室の入り口でサラとヴィンセントがベアトリスを呼び、手招きをした。

 ヴィンセントがサラを迎えに行った本当の理由などベアトリスは知る由もなく、先にサラを迎えたヴィンセントに寂しさが現れる。

 また二人が一緒に居るところを見せられると、気分が優れなくなっていくが、それでも素直に嫌な顔を見せることもできず、無理をしていい子を演じてしまった。

 横目でアンバーとポールに扮したコールをチラリと見てから、ヴィンセントとサラのところへと足を向けた。

 自分が休んでいる間にすっかり周りの状況が変わってしまっている。

 ベアトリスは何本もの糸に絡まるような気分だった。

 二人の前まで来ると胸がキリキリしだした。

 気持ちは抑えても、体はこの状況を喜んでいなかった。

 サラが早く行こうと催促してベアトリスの腕を引っ張ると、ベアトリスは言い難そうに言葉を発した。

「あの、もしかしたらパトリックが校門で待ってるかもしれないの」

「パトリック? それ誰?」

 ヴィンセントはわざとらしく聞き返した。

「あの、その、私の……」

 どう説明しようか言葉を選んでいる最中にサラはもどかしいと口を挟んだ。

「幼馴染で、今こっちに遊びに来てるだけでしょ。彼のことなら心配いらない。グレイスたちに伝言頼んでおいたから。今日は私達だけで遊びに行こう」

「えっ」

 サラがベアトリスに有無を言わせず強引に引っ張っていく。

 その後ろにはヴィンセントが微笑んでついてきていた。

 ──どうなってんの。この間までヴィンセントは私に近寄ることもできなかったのに。それにどうしてサラが主導権を握ったように指図するの。

 ベアトリスは頭で疑問を抱いても、されるがままになるしかなかった。

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