ピュアダーク
 以前サラと来たことのあるファストフード店にベアトリスはまた再び足を踏み入れた。

 あれだけ会いたかったヴィンセントを目の前にしながらベアトリスは少しも嬉しそうな表情ではなかった。

 戸惑い、不安、そして醜い感情が喜びを消し去っていく。

 テーブルを挟み、サラと向かい合わせに座ったものの、ヴィンセントはサラの隣を選んで座った。

 ベアトリスから斜め前にいるが、サラと比べるとヴィンセントの距離は遠く感じる。

 アイスクリームはヴィンセントがおごってくれた。

 そしてヴィンセントは、二人だけにしかわからないような合図でサラの目を見ては頷き、コミュニケーションを取っているように見えた。

 ベアトリスもヴィンセントも顔を時々合わすが、お互いを意識しすぎて何から話してよいのかわからない。モジモジしてると、気の短いサラがヴィンセントの足をテーブルの下で蹴った。

 ヴィンセントははっとして、ヘラヘラするが、それがベアトリスには二人の秘密のサインに見えて、余計に気分が沈んでいく。

 ベアトリスは我慢できずに口を開いた。

「ヴィンセント、以前手紙くれたよね。私とても嬉しかった。あの後事故にあってしまったけど、私いつでも授業さぼってもいい」

 ヴィンセントは返事に困った。

 あの時はポーションの効果を期待して行動を起こす準備をしていたときだった。

 それを使い果たした今はもう二人っきりでは会えない。

「うん、でもベアトリス学校かなり休んじゃったし、これ以上さぼったら勉強遅れちゃうかもしれないから、あれはなかったことにしようか……」

 苦し紛れの言い訳。

 ヴィンセント自身納得がいかないのにベアトリスがいい思いをするとは思えない。

 まずいと顔を歪めてつい目を逸らしてしまった。

 案の定、それはマイナス効果となり、ベアトリスには避けられているように思えてならなかった。

 悪循環は止まる事を知らず、二人はまた沈黙してしまった。

 石になろうとひたすら黙々とアイスクリームを食べていたサラだったが、食べ終わるとやることがなく、二人のもどかしさにイライラが募っていった。

「あのさ、二人っていつもこうなの? はっきりしないというのか、じれったいというのか……」

 サラがまたしゃしゃり出てきたことで、ベアトリスは遮った。

「私、まだ体の調子が優れないので、申し訳ないけど、帰るね。二人でゆっくりして。ヴィンセント、アイスクリームありがとう」

 ベアトリスは突然席を立ち、店を出て行く。

 テーブルの上には手をつけてないアイスクリームのカップがそのまま置きざりにされた。

「ベアトリス、待って」

 ヴィンセントはサラを引っ張って追いかける。

 サラも仕方がないと一緒についていくが、それは却って逆効果の何ものでもない。

 ヴィンセントは必死にベアトリスを呼び止めるが、振り向けばヴィンセントがサラの腕を引っ張ってる姿にベアトリスはとうとう冷静に何も考えられなくなってしまった。

 それは醜い感情を抱き、自分自身を苦しめた。

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